大阪大学 社会技術共創研究センター
赤坂 亮太 准教授
ロボット分野での新事業や投資を考えるなら忘れるべからず!技術発展以上に注目すべきは法整備!

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今回は大阪大学の赤坂亮太先生にインタビューをしてきました。

赤坂先生は大学の社会技術共創研究センターに所属されていて、AIなどの法律を専攻されている教授です。

そんな赤坂先生に伺った話は、ロボット技術に関心のある起業志望者・経営者が知っておきたい「ロボット分野での法整備」についてです。

「今ロボット関連の法律はどれほど整備されているの?」

「ロボット分野ではどんなものが注目されている?」

そんな疑問を抱えた方に向けた内容になっています。

では早速見ていきましょう。

取材にご協力頂いた方

大阪大学 社会技術共創研究センター 准教授
赤坂 亮太(あかさか りょうた)

2006年慶應義塾大学環境情報学部卒業。2013年慶應義塾大学メディアデザイン研究科単位取得満期退学。2016年同研究科博士号取得。博士(メディアデザイン学)。ロボットやAI、仮想空間等の先端情報技術に関する法的問題に関する研究に取り組む。産業技術研究所特別研究員などを経て、2020年4月より現職。

目次

ロボット技術はどこまで普及している?活用事例を紹介

エモーショナルリンク合同会社取材担当(以下EL):赤坂先生、本日はよろしくお願いいたします!本日はロボット分野を専門とされている赤坂先生に、ロボット分野でビジネスをしていこうと考えている起業志望者・経営者向けに、最近のロボット事業や法整備についてお話を伺いたいと思います。

赤坂先生:こちらこそよろしくお願いします。

EL:まず始めに、現在ロボット技術がどのような場面で活用されているのかを教えていただいてもよろしいでしょうか?

赤坂先生:活用事例ですが、「ロボット技術をどう定義するか」に依ります。ロボットは総合的な技術が用いられており、統一的な定義がありません。各要素の技術では、さまざまなところでロボット技術が使われていると言えるでしょう。

例えば、自動操縦という点でいえば航空機では以前から実用化されていますし、自動車の自動運転機能やドローン、AIにも使用されています。特にAIに関しては、多くのスマートフォンにAI技術が使われていますので、ロボット技術は部分的には既に広まっていると言えるでしょう。

EL:私達が普段から使っているスマホにも、AI技術が使われているんですね。

AIというと、「人間によって指定されたことだけを実行するのではなく、AI自体が学習を積み重ねていくプログラム」という理解で合っていますでしょうか?

赤坂先生:それだけではないのですが、近年AIが話題になっている背景には、そういった学習能力の進化が大きく影響しています。

EL:他にはどのような分野でロボット技術が使われているのでしょうか?

赤坂先生:他にはロボット犬の「aibo」のように、ペットやパートナーとしての役割を持つロボットもあります。

ロボット分野の中には、さまざまなところにロボットも連れて入れるようにする「ロボットフレンドリー」と呼ばれるプロジェクトを実施している人もいて、「ロボットを何かの役に立たせる」というよりは、ロボット自体をペットやパートナーとして扱う考え方もあるのです。

EL:仕事にロボットを活用するだけではなく、愛情方面での活用方法もあるんですね。

ロボットが起こした事故は誰が責任を負うのか

EL:こうしたロボット技術の普及は私達の生活を便利にしたり、技術発展に貢献したりするものと思いますが、ロボット技術の発達によって懸念される事故はあるのでしょうか?

赤坂先生:前提としてロボット技術の発展によって、事故自体は減るものと考えられます。例えば人が運転する自動車事故のほとんどがヒューマンエラーによるものですから、そういったミスを減らすことがロボット技術の目標の1つとしてあります。

EL:たしかに機械であれば、人間のように集中力が欠けるような心配はないですよね。

しかし自動運転も今後普及していく中で、ロボットが想定外の行動をした結果、交通事故を起こしてしまうケースも出てくると思いますが、その場合は誰が責任を負うのでしょうか。自動運転の乗用車なのでしょうか?それとも自動運転の開発者でしょうか?

赤坂先生:ロボットが起こした事故の責任を誰に追求するのかは、現在の法律では文言の上では定められていません。AIが学習した結果による事故ならば、誰に過失があったのかということに基づいて責任を考えることは難しくなるでしょう。しかし、「ロボット技術で利益を得ているのは誰か」という観点から責任を考えることは可能でしょう。

EL:そうなんですね。それでは自動運転の車が事故を起こした場合、自動運転のサービスを提供している会社が責任を負う可能性があるのですか?

赤坂先生:そうですね、例えば自動運転車を貸し出しているような会社があれば、ここに責任を負わせようという考え方はあると思います。これまでも予期せぬ事故や、人間の制御できない危険なものを扱って生じた事故については、それを取り扱っている人物が責任を負うという考え方が採用されてきました。

例えば原発も、事故のリスクのあるものを市井に置く必要があるので、それを使用して利益を得ている組織があれば、その組織に責任を負ってもらうという結果が生まれます。

EL:仮に因果関係や過失が無かったとしても、その道具を使用して利益を得ている組織・団体が責任を負うという考えをするんですね。

赤坂先生:自動運転の場合も同様の考え方をするのではないかと思います。ただロボット技術を使用する場面は自動運転車以外にもいろいろあるため、ロボット技術が使われていても車両として扱わないケースも出てくるでしょう。

今後、ロボット技術に関する詳細な法整備をしていくか、あるいは既存の法律をどう解釈するかが話し合われると思います。

ロボットの法整備はどれほど進んでいる?

EL:法整備や法解釈について議論されていくとのことですが、現在ロボットの法整備はどれほど進んでいるのでしょうか?

赤坂先生:ロボット自体を対象にした法整備よりも、現状最も注目されているのはAIに関する規制ですね。特にEUにおいては「AI規制法案」が策定されていて、施行を待っている段階です。リスクに基づいてAIを4段階に分けて、危険度の高いものほど禁止または規制がされます。

EL:EUではAIの規制が進んでいるんですね。

赤坂先生:例えば生体識別システムの利用に関してはリスクが高いとみなされます。なぜなら人々の監視にも繋がりますし、AIの開発においては、データを読ませて学習させる必要があり、その学習によっては差別につながるリスクもあるためです。そのため、人間の尊厳や平等性といったところに対してAIが加担してしまわないよう、規制が施工されようとしています。

一方、チャットボットやペットロボットのような技術については比較的リスクが少ないとみなされますので、規制が限定的です(ただし、AIと相互作用していることなどを知らせる義務等限定的ですが規制があります)。

EL:たしかに民族や国による特徴をAIが識別すれば、それは差別につながるリスクがありますね。

それでは、日本ではどれほど法整備が進んでるんでしょうか?

赤坂先生:日本では今のところ、横断的な法整備というよりは自主規制的に進めていこうという話があります。一方、顧客の情報を取り扱う企業に対する規制であれば、現在既存の法の改正も含めて策定が進んでいるところです。

データの適正な取得・使用および用途の透明性や公平性を明らかにする方向性ですね。

EL:取得した情報をどう扱うかに焦点を置いた法整備がされてるんですね。

赤坂先生:そうですね。今のところAIそのものが事故を起こすことより、むしろ個人のデータをどう扱い、個人にどう影響を与えるかというところに関心が高いと言えます。

AIの使い道はロボット以外にも相当広く、情報の取り扱いによる問題が過去に何度か発生しているのです。例えば企業の中には、AIに就活生の情報を読み込ませ、学生の内定辞退率を導き出して企業に販売するようなことをしていたところもありました。

AIを採用活動に利用するとなると、「属性によって選定する」ような結果を導いてしまうこともありえ、個人の尊厳を損なうことになるでしょう。

そのため世界的に、個人の情報の取り扱い方に関する法整備が進んでいるのです。

今後のロボット技術の注目点は「遠隔操作」

EL:今後もロボット関連のサービスは、さまざまな法整備・法解釈のくぐり抜ける必要があると思いますが、近い将来で最も現実的に普及していくと考えられるロボットは何ですか?

赤坂先生:それもどのようにロボットを定義するのかによって答えが変わってきます。

先ほどお話したようにスマホや自動運転、そして航空機にもロボット技術は使用されていますし、「ルンバ」のようなお掃除ロボットや、ビルのメンテナンスするタイプのロボットなども既に普及しています。例えば東京の竹芝では、エレベーターに乗ってビル内を清掃するロボットもあります。

EL:私達の生活の中で、既にロボット技術はさまざまなところに導入されているんですね。

赤坂先生:そうですね。中でも興味深いのは「遠隔操作」で取り扱うロボットです。

EL:遠くに離れたロボットを、人が操作することができるんですね。

赤坂先生:遠隔操作ロボットは、人が遠くから操作できるだけではなく、さまざまなことが可能になります。

例えば最近ですと、障害を持つ方が就労に使用するための、遠隔操作のロボットの利活用が進んでいます。他には海外にいる方が「日本でちょっと働いてみたい」という時に、身体性を持って働くことも可能になります。

また、遠隔操作であれば一人で何台ものロボットを動かしたり、何人かで1台を動かしてみることも可能です。実際にパナソニックさんが「配達ロボット」を開発し、道路交通の許可を取った上で、一人で4台のロボットを遠隔操作したこともあります。

EL:一人で複数のロボットを動かすことができれば、作業効率が上がりそうですね。パナソニックさんがそういった遠隔操作ロボットを活用していることもはじめて知りました。

赤坂先生:他にもテレイグジスタンスと呼ばれる遠隔操作ロボを使用すれば、ロボットが触ったものを、操作している人間も遠くから知覚することもできます。

EL:ロボットが何かに触った感覚を、操作している人間も知覚できるんですか?

赤坂先生:そうですね。この概念は東大の名誉教授をされている舘先生が1980年代に提案されていて、遠くにいながらも、その場に存在しているかのように扱うことができるものです。

例えば水の入ったペットボトルを上下に振れば、中の水が上下にバシャバシャと動くのを手で感じると思いますが、この種の遠隔操作ロボを使えば、それと同じ感覚を再現できるのです。

さらに物体の暖かさや冷たさ、もしくは「ざらざらしてる」といった感触をデータとして扱えるようになっています。

EL:すごいですね。遠くからでもロボットを介して感覚が伝わるんですね。

そういった遠隔操作ロボはどこまで実用化が進んでるんですか?

赤坂先生:まだこのような遠隔操作ロボの実用化は黎明期といえます。ただ一部では実装されている場面もあり、コンビニなどでロボが品出しするような作業をしている事例もあります。

今後は、災害時などで瓦礫をどかしたり、生命体の反応を発見したりなど、救命活動に応用できることが期待されています。

遠隔操作の技術はメタバースでも活用される

赤坂先生:遠隔操作についてですが、使われている技術はデータ通信なので、正直ロボットじゃなくても良いんですよ。実際にメタ社(旧Facebook社)は「VRハプティック・グローブ」というのを開発していて、メタバース(仮想空間)上で何かを触れば、その感覚を実際に人も知覚できるんです。

EL:仮想の世界で、キャラクターを通して感覚を再現できるんですね。メタ社はメタバース領域に対して本格的に力を入れているんですね。

赤坂先生:メタ社だけではなくて、実は日本でも同様の開発が進んでいて、仮想空間の利用は考えられ始めています。

EL:メタバースにも法整備などの課題はあるのでしょうか?

赤坂先生:メタバースについては結構課題が多いですね。

例えばメタバース上で、特定のアバターに対する誹謗中傷や名誉毀損があった場合、メタバース上で出来事が完結していると、本当にその人の社会的評価を下げたと言えるのかの判断が難しくなります。

EL:ネット上の誹謗中傷・名誉毀損はSNSでも見かけますよね……メタバース上で名誉毀損が認められたケースはあるのですか?

赤坂先生:名誉感情への侵害が認められたケースがあります。認められた要因としては、そのキャラクターを操作している人物が誰であるかが明確になっていたためでした。しかし、名誉毀損については操作している人物が不明確である場合、そのキャラクターの社会的評価を認めるかというのは難しいポイントになります。

こうしたところは、まだ法的に未整理な部分ですので、今後どうなるかが気になりますね。

EL:たしかにメタバースではアバターを操作しますし、本名を使わない方の方が多いため、名誉毀損を立証するのは難しそうですね。

最後に、これからロボット技術を活用して何かビジネスをしようとしている経営者や起業志望者の方に向けて、先生からアドバイスをお願い致します。

赤坂先生:重要なことは、法規制を理解しておくことです。規制を守っていないと行政から処分させられたりするケースもありますので、事業をおこなおうとする領域の事前規制に関する知識は学んでおく必要があります。

一方で不確定な部分については保険などによるリスク回避手段もありますので、そういった救済措置を活用したり、もしくは自分たちが活動しやすくなるようなルールを作るよう行政に働きかけたりするのも良いでしょう。

EL:ルールを自分たちで作る側に回るということですね。たしかに行政にとっても、その分野でサービス提供している方々の意見は重要になりそうです。

本日は取材にお答えいただき、誠にありがとうございました!

まとめ

ロボット技術というと、「自分たちとは馴染みのないもの」と考える方もいるかと思いますが、私達の身近なところで活用されています。例えば普段使用しているスマホにも使用されていますし、家庭やビルなどで導入されているお掃除ロボットもあります。

そして将来的には、自動運転や遠隔操作にもロボット技術は活用されていくことが期待されているのです。自動運転や遠隔操作の実用化が進めば、現在よりも経済活動が活発化したり、就労や活動などの選択肢も増えるでしょう。

また、遠隔操作はメタバースでも利用されており、アバターを通してプレイヤーにも感覚を伝えることが可能です。

ただしロボット技術やメタバースはまだ発展途上ですので、導入に向けてさまざまな法整備や法解釈が必要になっていくでしょう。

(取材・執筆・編集/エモーショナルリンク合同会社)

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