大阪国際大学 経営経済学部 外島健嗣教授が語る「つみたてNISAやiDeCoを利用した安定的な資産運用戦略」とは?
「安定的な資産運用はできるの?」との疑問を抱いたことはありませんか?
銀行預金を安定的な資産運用のひとつとしてあげることもできますが、満足いく結果は得られないでしょう。
そこで、大阪国際大学の外島健嗣教授に安定的な資産運用についてお伺いしてみました。
取材にご協力頂いた方
大阪国際大学 経営経済学部 教授
外島 健嗣(そとじま けんじ)
岐阜聖徳学園大学経済情報学部専任講師・助教授・准教授、大阪国際大学ビジネス学部准教授を経て、現在、同大学経営経済学部経済学科教授。この間、近畿大学・大阪産業大学・関西大学非常勤講師を歴任。
主に株式市場の流動性に関する研究を専門にしています。
著書に『証券投資の基礎知識』(共著、晃洋書房)、『現代日本の金融取引入門』(共著、晃洋書房)等があります。
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安定的な資産運用はできるのか?
エモーショナルリンク合同会社取材担当(以下EL):早速ですが、そもそも資産運用は必要なのでしょうか?
外島教授: 最近、電気代等の光熱費、ガソリン代をはじめ、食料品などの値上げが相次いでいます。
その一方で、給料は上がらないし、税金や社会保険料は増加の一途を辿っています。
頑張って節約してもなかなかお金は増えないのが現状です。だからこそ、運用は必要といえるでしょう。
EL:資産運用が必要だとして、どのように資産運用をしていけばよいのでしょうか?
外島教授:運用が必要だといっても、暗号資産や価格変動の激しい株式に全財産を投資しようというのは間違った考え方です。
生活費・教育費・住居費・老後の備え等といった資金の性格、またリスクとリターンを考慮し、うまく資金配分する必要があります。
EL:なるほど、では安定的に資産を運用することはできるのでしょうか?
外島教授:先ほど言ったように、資金の性格、リスクとリターン、そして資金配分を上手に行うことで安定的な運用は可能であると思います。
しかし、そのためにはやはり、経済情報を中心としたニュースをみたり、新聞や本等を読んだりといった努力が必要であります。
EL:資金の性格からリスクとリターンのバランスをとり、適切に資金配分することで安定的な資産運用は可能ということですね。
安定的な資産運用として、すぐに思いつくのは銀行預金なのですが、銀行預金が資産運用に向かない理由を具体的に教えていただけますか?
外島教授:現在は、支出が増える一方で収入が上がらないため、何とかたまったお金も銀行に預けていてもほとんど増えません。
例えば、大手銀行の定期預金に100万円を預けても、金利は0.002%ですので、1年間につく利息は20円です。そこから約20%の税金が引かれるので、手取りはもっと少なくなります。
EL:確かに、100万円で年間のリターンが20円ほどでは運用とはいえませんよね。運用先を見定める上でも、リターン計算が必要になってくると思います。
しかし、複利運用のリターン計算は複雑でややこしい気がします。簡単に計算できる方法はありますか?
外島教授:「72の法則」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。これは、金利の複利効果により元本が2倍になる投資期間を概算で求めるための法則で、72を金利で割って求めます。 計算式は次の通りです。
- 72÷金利=投資期間(年)
先ほどの銀行預金を例にとり計算してみましょう。
- 元本100万円を年利0.002%で運用した場合
- 2倍の200万円になるのにかかる年数
以上の条件を計算式にあてはめると、約36,000年(=72÷0.002)かかることになります。
いくら銀行預金は安全であるといっても、これではお金を増やすことはかなり厳しいです。
EL:72を金利で割ると元本が2倍になる投資期間がだいたいわかるわけですね。計算が簡単なので、運用する商品を選ぶ際にすぐに利用できますね。
投資初心者はどのような金融商品を選ぶべきか?
EL:運用先を選ぶ際に、株式投資は初心者でも始めやすい投資対象のように思うのですが、外島教授はどのようにお考えですか?
外島教授:投資を初めて間もない方が、株式投資でコンスタントに収益をあげることは難しいです。
EL:では、投資初心者はどのような金融商品から始めればよいと思いますか?
外島教授:まずは「投資信託」か「ETF」に投資をするとよいでしょう。
投資信託は投資の専門家が分散投資をする商品で、1万円程度からの小口投資が可能な商品です。
EL:なるほど、投資の専門家が分散投資をしてくれるのなら、投資初心者でも運用できますね。また、投資金額についても始めやすい金額ですね。
引き続き、投資信託についてもう少し詳しく教えていただけますか?
外島教授:はい、投資信託の中には、公社債投信のようなリスク・リターンが比較的低い商品から、株式投信のうちアクティブ投信のようにリスク・リターンの高い商品まで様々なタイプの商品があります。
そのため、過去のパフォーマンスを良く調べ、自分のリスク許容度に応じて投資をする必要があります。
EL:どの程度のリスクを許容できるのかを考えながら選ぶ必要があるということですね。ETFについても教えてください。
外島教授:ETFは指数連動型上場投資信託のことで、株式同様に証券取引所に上場され、取引時間中リアルタイムで売買ができるものです。
日経平均株価やTOPIX等、普段ニュース等で耳にしたり、目にしたりする株価指数と連動するタイプのものがあります。
ですので、なんとなく高くなっている、安くなっているというのがわかりやすいものなので、個別株式を選んで投資するより投資しやすいかと思います。
EL:日経平均株価やTOPIX等など、なじみのあるものに連動したタイプなら初心者でも始めやすいかもしれませんね。
ただ、一般的に最もなじみ深い投資といえば、やはり株式投資だと思います。どうしても株式投資から始めてみたいという方のために、アドバイスをいただけないでしょうか?
外島教授:そうですね。個別株式に投資をするなら、あまり聞いたことのない企業の株式に投資をするより、普段利用する身近な店を展開している企業の株式に投資をするのも一案です。
また、飲食店なら株主優待制度を導入している企業も多いので、株主になり株主優待を貰いそれを利用する、というのも株式投資の魅力の1つです。
EL:どんな株を選べばいいのか迷ってしまうときに、自分の知識や体験を元に選択するのなら、初心者でも株式投資を始めやすいですね。
また、株主優待なら、楽しみながら投資ができそうですよね。他に、株式投資をする際になにか注意点はありますか?
外島教授:確かに、株主優待は株式投資の魅力の1つではありますが、あくまでもサブであり、メインはキャピタルゲイン(値上がり益)です。
ですので、企業業績等を調べて投資する必要があるのは言うまでもありません。
また、株主優待は企業にとっては義務ではないので、急に株主優待制度を廃止する企業もあるため注意が必要です。
なお、投資信託や株式の売買で儲かったキャピタルゲインやインカムゲイン(配当金)には、約20%の税金が課せられます。
投資初心者はそれほど投資金額やキャピタルゲイン等は多くないと想定されるため、これらの税金も可能なら節約して資産運用したいところです。
EL:投資をする際は、ついついリターンばかりに目がいってしまいます。しかし、リターンが出れば、税金の心配もしなければなりませんね。
外島教授:そこで是非利用して欲しいのが、NISA等の制度です。
NISAの種類と制度
EL:では、NISAについて教えていただけますか?
外島教授:NISAは少額投資非課税制度のことで、現在一般NISA、つみたてNISA、ジュニアNISAの3種類があります。
いずれもキャピタルゲインやインカムゲインといった運用益は非課税で、資金はいつでも引き出すことが可能です。
NISA口座の開設は1人1口座までですが、金融機関の変更は1年単位でおこなえます。
ただ、このうちジュニアNISAは未成年のみを対象にしたもので、2023年末には開設できなくなります。
EL:NISAには3種類あり、ジュニアNISAは2023年末までとのことですね。では、一般NISA、つみたてNISAについてもう少し詳しく教えていただけますか。
外島教授:まず、一般NISAとつみたてNISAは同じ年に併用することはできません。
どちらかを選択しなければなりませんが、1年単位で変更することができます。
EL:一般NISAで運用できる金額はどのくらいまでなのでしょうか?
外島教授:一般NISAの年間投資枠は120万円、非課税期間(運用期間)は5年間です。
投資累計額の上限は600万円で、国内外の株式や投資信託などに投資できるものです。
EL:続いて、つみたてNISAについても教えてください。
外島教授:つみたてNISAの年間投資枠は40万円、非課税期間(運用期間)は20年間です。
投資累計額の上限は800万円で、金融庁の基準を満たした投資信託に投資できるものです。
非課税投資期間が20年と、長期にわたり積み立てられる制度ですので、複利の効果やリスクの低減などのメリットが期待できます。
EL:なるほど、どちらかといえば、つみたてNISAの方がリスクを抑えた運用ができそうですね。
一般NISA、つみたてNISAの運用は誰でもできますか?
外島教授:一般NISA、つみたてNISAはともに満20歳以上の国内居住者という加入条件が付されています。しかし、2023年1月以降は18歳以上に引き下げられます。
なお、一般NISAは2024年から新NISAに衣替えされることになっています。
その他の資産運用に適した制度
EL:NISA以外にも、資産運用に適した制度はありますか?
外島教授:NISA以外にも、資産運用に適した制度にiDeCoというのもがあります。
EL:では、iDeCoについて教えていただけますか?
外島教授:iDeCoは個人型確定拠出年金で、老後の資金形成に特化した制度です。
EL:iDeCoは、NISAと同じように運用できる金額に上限はありますか?
外島教授:iDeCoの年間投資枠は、加入者の職業等で14万4千円から81万6000円となっており、加入者の年齢、職業等で累計上限は変わります。
EL:なるほど、iDeCoの投資枠はNISAとは異なり幅がありますね。では、iDeCoで投資した資金はNISA同様いつでも引き出すことができるのでしょうか?
外島教授:iDeCoで投資した資金は原則として60歳まで引き出すことはできません。
しかし、掛金は全額、所得控除でき、運用期間中の運用益は非課税になります。また、受取時の税制も優遇されています。
EL:iDeCoなら、掛金を積み立てたとき、運用して資金が増えたとき、お金を受け取るときのそれぞれで節税効果が期待できますね。
ちなみに、iDeCoの資金は60歳以降ならいつでも受け取ることができるのでしょうか?
外島教授:iDeCoの受給開始時期は60歳から75歳の間で選択できます。また、60歳以降も会社員として働く人の場合、加入年齢を65歳まで延長することができます。
数字が多く登場したので、ここまでの話をまとめると、次の表のようになります。
一般NISA、つみたてNISA、iDeCoの比較
一般NISA | つみたてNISA | iDeCo | |
年間投資枠 | 120万円 | 40万円 | 14万4,000円~81万6,000円*加入者の職業等で変わる |
非課税期間(運用期間) | 5年間 | 20年間 | 20~65歳未満(75歳まで運用のみ可能) |
累計上限 | 600万円 | 800万円 | 加入者の職業等で変わる |
運用できる商品 | 国内外の株式、投資信託など | 金融庁が選定した投資信託・ETFなど | 投資信託、定期預金、保険など |
運用益への課税 | 非課税 | 非課税 | 非課税 |
拠出時の所得控除 | なし | なし | あり |
加入条件 | 満20歳以上の国内居住者 | 満20歳以上の国内居住者 | 20歳以上65歳未満の国民年金被保険者 |
資金の引き出し | いつでも可 | いつでも可 | 原則60歳まで不可 |
おすすめの運用方法
EL:ご紹介頂いた一般NISA、つみたてNISA、iDeCoでのおすすめ運用方法を教えていただけますか?
外島教授:はい、つみたてNISAはいつでも引き出すことができ、iDeCoは原則60歳まで引き出すことのできないものなので、その制度の性格をうまく利用し両方で運用するべきだと思います。
EL:なるほど、制度の性格をしっかり理解して運用する必要がありますね。両方で運用するとして、やはり資金の性質なども考えたほうがよいのでしょうか?
外島教授:そうですね。老後の資金は将来的に必ず必要になるため、それに備える資金としてiDeCoの運用をメインに考えると良いかと思います。
また、車の購入、住宅の購入、子供の学費支払いなどといったまとまったお金が必要な時に備える資金として、つみたてNISAを活用するのが良いかと思います。
EL:資金の用途に応じて制度を使い分けることも必要ですね。投資する金融商品についても使い分けは必要なのでしょうか?
外島教授:そうですね。投資信託より個別株式に関心がある方や、まとまった資金を備える必要がない方等は、つみたてNISAではなく、一般NISAを活用するのも良いと思います。
いずれにせよ、低金利の銀行預金のみで運用すれば、ほとんど増えない時代です。
一般NISA、つみたてNISA、iDeCoといった税制的に優遇されている制度をフル活用して、資産形成していく必要があります。
EL:最後に、資産形成をしていく際の、資金自体を捻出するのが難しいという方もいらっしゃると思います。
そんな方のために先生からのアドバイスをいただけないでしょうか?
外島教授:資産形成のための資金は「収入から支出を差し引いて貯蓄・投資に」という考えではなく「収入からまず貯蓄・投資を差し引き、残りを支出に充てる」という考えをするように心掛けるべきです。
- 収入―支出=貯蓄・投資 ⇒ 収入―貯蓄・投資=支出
20代や30代の方は、老後を見据え、長期にわたり資産形成を考える必要があります。
長期間にわたり一定額を拠出して金融商品に投資をする「つみたてNISA」や「iDeCo」は、とても魅力的な制度であるといえるので、是非活用を検討ください。
まとめ
現在は支出が多くなる一方で、収入が上がらないというような状況が続いているため、安定的な運用が強く求められる時代です。
安定的に運用するための特殊な投資方法が必要なわけではなく、外島教授のいわれるように努力が必要です。
また、現行の制度を理解しフル活用していくことで、有利に資産形成をすることができます。
まずは、収入から貯蓄や投資に充てる資金を差し引くことから実行してみるのも良いのではないでしょうか。
参考文献:
川部紀子監修『今すぐはじめれらる NISAとiDeCo』永岡書店
藤川太『世界一かんたんなNISAとiDeCoの得する教科書』宝島社
(取材・執筆・編集/エモーショナルリンク合同会社)