広島修道大学経済科学部
岩永安浩 教授
アノマリーの有効性とは?

株価はなぜ変動するのでしょうか。

景気の良し悪しや金利の上昇低下、為替の変動など株価が動く要因は様々です。

そして、数多くある株価の変動要因のひとつに「アノマリー」があります。

アノマリーの名前を聞いたことがあっても、内容を詳しく知っている方は意外と少ないのではないでしょうか。

そこで今回はその「アノマリー」について、広島修道大学の岩永教授に基礎知識からアノマリーを利用した誰でも使える投資手法まで詳しく伺いました。

この記事を読めば投資初心者の方でもアノマリーについてより深く知ることができる内容となっていますので、ぜひ最後までご覧ください。

取材にご協力頂いた方

広島修道大学経済学部教授 岩永安浩

広島修道大学 経済科学部 教授。

住友信託銀行(現・三井住友信託銀行)等を経て、2020年4月より現職。京都大学博士(経済学)。主な論文に「高頻度データを用いた債券超過リターンの予測」(『証券アナリストジャーナル』17年4月号)、”Japanese Patent Index and Stock Performance”(The Journal of Financial Perspectives July 2014、共著)などがある。

はじめに「アノマリー」とは?

エモーショナルリンク合同会社取材担当(以下EL):まずはじめに「アノマリー」とはどういうものでしょうか?

岩永教授:アノマリーとは「理論では説明できない経験に基づいた規則性」のことを指します。

合理的では無いものの株価の予想をつけやすいため、アノマリーを活用している投資家はとても多いですね。

アノマリーの例としては、5月以降数カ月間は株価が下がりやすいことを意味する「セルインメイ効果」などがあります。

株式投資ではこのようなアノマリーを利用するのも利益を積み重ねていくうえでは重要です。

EL:ありがとうございます。アノマリーの例としてセルインメイ効果を挙げられましたが、他にはどのようなアノマリーがあるのでしょうか?

岩永教授:株式投資においてアノマリーは「個別株」と「指数(インデックス)」の2種類に分けることができます。

個別株のアノマリーの代表例としては以下のようなものがあります。

  • 小型株効果
  • 低ボラティリティ効果
  • 低PER効果
  • 配当利回り効果
  • モメンタム効果
  • リバーサル効果

などなど

「小型株効果」は時価総額の大きい大型株よりも時価総額の小さい小型株のほうが収益率が高くなる傾向がある、というアノマリーです。

現代ポートフォリオ理論の代表的理論であるCAPM(資本資産価格モデル)では、市場が効率的であれば個別証券のリターンは時価総額の大小に関係なく、リスクによってだけ決まるということが言われています。

この点で小型株効果は理論的に説明ができず、アノマリーとしての要件を満たしていますね。

もうひとつ例として「低ボラティリティ効果」がありますが、これはボラティリティが大きい銘柄に比べて、ボラティリティの小さい銘柄の方がリターンが高い傾向があるといったアノマリーです。

ボラティリティが大きい銘柄は理論的には「ハイリスク・ハイリターン」と言われますが、実際の市場では「ハイリスク・ローリターン」になっていることが世界中の市場で観測されています。

EL:なるほど、私もボラティリティが大きい銘柄ほど稼げるイメージだったのでとても意外でした。

では次に、指数(インデックス)にはどのようなアノマリーがあるのでしょうか?

岩永教授:指数(インデックス)のアノマリーの代表例としては以下のようなものがあります。

  • 月末月初効果
  • 曜日効果
  • 祝日効果
  • 1月効果
  • セルインメイ効果

などなど

EL:記事の冒頭でお話しいただいたセルインメイ効果は指数のアノマリーなんですね。

岩永教授:そうですね、5月に指数を売却して10月に指数を買い戻すと利益が出やすいですよ、というのがセルインメイ効果の内容です。

ちなみにセルインメイ効果はアメリカの市場でいわれているアノマリーで、日本の場合は1月から6月の上半期に銘柄を保有しておいて、下半期に売却すると利益が出やすいという研究結果もあります。

他に指数のアノマリーでは、「月末月初効果」というものもあります。

月末月初効果とは、月末と月初の数営業日はその他の営業日と比べて指数が上がりやすいというアノマリーで、こちらも個別株のアノマリーと同様に理論的に説明がつきません。

また、個人投資家の方も参考にしやすいアノマリーとして「天気」もあります。

具体的には雨の日よりも晴れの日の方が株価が上がりやすいというアノマリーで、全国的に晴れているような日は指数に注目してみても良いかもしれませんね。

EL:アノマリーと聞くと難しいイメージを持つかもしれませんが、実際の天気も活用できたりと意外と身近なものなんですね。

アノマリーを利用した株式投資は稼げる?

EL:ズバリお聞きしたいのですが、アノマリーを利用した株式投資は稼げるのでしょうか?

岩永教授:結論から言うと、稼ぐことが可能です。

アセットマネジメントや信託銀行、ヘッジファンドといったプロの機関投資家では古くからアノマリーを利用した投資戦略が採用されています。

機関投資家の運用スタイルは「ジャッジメンタル」と「クオンツ」の2つに分かれています。

「ジャッジメンタル」とは経済全体の動きであるマクロ経済や企業の決算情報を利用して、ファンドマネージャーが投資判断を行って投資をするスタイルです。

もう1つの「クオンツ」とは過去のデータを含めたマーケットを分析して発見した相場の規則性を利用して、機械的に投資をするスタイルのことをいいます。

このクオンツ運用では実際に小型株効果などのアノマリーを利用した運用も行われているため、投資のプロもアノマリーを利用して利益を積み上げています。

EL:プロも運用方法として採用しているくらいですから、アノマリーは実際の株式投資にも問題なく活用できるんですね。

岩永教授:とはいえ、1つのアノマリーが常時利用できるわけでは無いので、複数のアノマリーを観測しながら投資を行っていくなどの必要はありますね。

なので、小型株効果や低ボラティリティ効果、セルインメイ効果や月末月初効果など様々なアノマリーを併用していかないとアノマリーを利用した投資で利益を出していくのは難しいかもしれません。

EL:なるほど、アノマリーを活用した投資で稼ぐことはできるけど複数のアノマリーに分散させて投資する必要があるということですね。

岩永教授:ちなみにですが、新しく発見されたアノマリーが論文などで発表されることがありますが、発表されるとそのアノマリーが消えてしまうという現象もあります(笑)

EL:せっかく発表したのにアノマリーが消えちゃうなんて悲しいですね(笑)

岩永教授:そのため、プロの機関投資家は常に古いアノマリーを新しいアノマリーに置き換えて投資を行っています。

常に新しいアノマリーを発見して利用しているので、プロの機関投資家は我々が知らないようなアノマリーを使って利益を上げていってるんですよ。

新しく発表されるアノマリーは実はすでに機関投資家が長年使っていたアノマリーだったということもあるくらいです。

EL:機関投資家の方々は本当にすごいですね、少しでいいから新しいアノマリーを教えてほしいですね(笑)

個人投資家でも利用できるアノマリーの投資手法は?

EL:個人投資家でも利用できるアノマリーの投資手法にはどのような手法があるのでしょうか?

岩永教授:まずはセルインメイ効果があげられます。

おさらいをすると11月から4月までの6ヶ月間だけ指数を買うと儲かりやすいよ、というアノマリーでした。

セルインメイ効果に則して投資をした場合は、年間を通して日経225を買い続けた場合に比べて最大2倍以上もの利益を出せたというデータもあります。

また、5月から10月までの期間は他の投資商品に資金が回せる点がセルインメイ効果のメリットです。

なので、6か月間だけの投資で収益を期待できて、残りの6ヶ月は別の投資に資金を回せる効率の良さから、セルインメイを利用した投資は個人投資家の方でも利用しやすいアノマリーといえます。

EL:ありがとうございます。他におすすめのアノマリーはありますか?

岩永教授:次におすすめなのが夜間の株式保有です。

2012年のアベノミクス以降、日本株の株価は上がっていますが、実は株価が上がっているのは日本時間でいう夜間の時間帯で、日中の時間帯は株価が下がりやすい傾向にあります。

投資手法としては単純に夜間、つまりは当日の終値から翌日の始値までロングしておき、日中の時間帯はショートしておくだけです。

特に手法として難しい内容ではなく、実際に利益も上げられている手法ですのでこちらの投資手法もおすすめですよ。

EL:どちらの手法もすぐに始められる内容で、実際に私も試してみたいと思います。

本日は貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました!

まとめ

今回は株式投資におけるアノマリーについて、広島修道大学の岩永教授にお話を伺いました。

アノマリーは理論的には説明できないものですが、実際にプロの機関投資家も利用している実績があります。

アノマリーを利用した投資は機関投資家だけではなく、個人投資家でも十分に利用できるものなので、この記事をご覧になった方は実際にアノマリーでの運用を試してみてはいかがでしょうか。

(取材・執筆・編集/エモーショナルリンク合同会社)