精神科医 北洋大学客員教授
香山リカ氏
誰もがなり得る「デジタル依存」!健康経営でリスクは低減できるか

現代は様々なサービスの利用や人とのコミュニケーション、そしてビジネスシーンにおいても、あらゆる場所にデジタル機器とインターネットが介在しています。

それらは私たちの暮らしを一変させ、多くの場合便利にしてきましたが、同時にそうしたものから得られる情報にのめり込み、抜け出せなくなる「デジタル依存」と呼ばれる厄介な副産物も産んでいます。

今回は、精神科医の香山リカ先生に、デジタル依存の現状や対策について伺いました。

デジタル依存は若い世代がなりやすいと思われがちですが、実はネットリテラシーの身についていないシニア世代にも特有の問題があります。

健康経営の観点から、経営者が注意すべきデジタル依存対策のアドバイスもいただいているので、社会のデジタル化のメリットばかりが注目される今、デジタルと人の心との関係に興味を持つ人にとっては、いろいろな気付きや発見があるのではないでしょうか。

精神科医の香山リカ氏の画像

取材にご協力頂いた方

北洋大学客員教授
むかわ町国民健康保険穂別診療所穂別診療所 副所長
香山 リカ(かやま りか)

1960年生まれ。東京医科大学卒業後、医師となり、主に精神科領域で臨床に携わる。また大学教員としては、2000年より神戸芸術工学大学デザイン工学部助教授、2003年より帝塚山学院大学人間文化学部教授、2008年より立教大学現代心理学部教授を務める。2022年からは、むかわ町国民健康保険穂別診療所副所長に就任、へき地医療に取り組んでいる。2023年より北洋大学客員教授。

目次

現代人はデジタル依存のリスクを避けられない

香山リカ氏とエモーショナルリンク合同会社代表の佐藤直人のインタビュー画像

佐藤:香山先生、今日はよろしくお願いいたします。

香山先生:よろしくお願いします。

佐藤:デジタル技術の発展は一般的に良いものとして語られることが多いですが、その一方でいわゆる「デジタル依存」と呼ばれる負の側面も表れてきていると思います。現在あるこうした問題について、先生はどのようにお考えでしょうか?

香山先生:そもそも、例えばスマホとかパソコンのようなコミュニケーションのツール、あるいは今は家電なんかもネットと繋がっていますが、それらは全て私たち人間を自由にするためのものだったと思うんですね。

70年代にカナダのメディア論者のマクルーハンが「グローバル・ヴィレッジ」という概念を提唱しましたけど、その当時はまだインターネットは完全には実現していませんでしたが、将来的にはそうした電子のネットワークで地球が全部一つの村のようになって、人が自由に行き来するかのように情報が行き来できるようになるという、ユートピア的な見通しもあったと思うんです。

例えば航空券の予約をするにも、昔はチケットの取扱所の営業時間にしか対応してもらえないとか、そこに実際に出向いて購入しなきゃいけないとか、そういう時代も実際にあって、私が若い時はそういうことも経験してるわけですが、今はスマホを使って、仕事のデスクの上でも、家にいながらでも、24時間いつでも予約をしてチケット購入までして、当日はアプリかなんかを使えばチケットレスで飛行機にそのまま搭乗できるようになりましたよね。

こうした例を一つ考えても、時間や空間の物理的な制約から、デジタル技術によって私たちは解放されたはずです。そういう意味ではグローバル・ヴィレッジは実現してると思いますが、しかし、考えてもいなかった色々な状況が起きている。私たちの心っていうのは非常に弱いもので、今日お話が出てるような、それに依存してしまう、あるいは支配されてしまう、ということが起きるわけですね。

佐藤:インターネットやデジタル技術は、私たちの生活を便利に、あるいは効率的にしてくれたと思います。しかし、その恩恵を受けている多くの人が、技術の副作用のような形でデジタル依存のリスクと隣り合わせになっているのが現代かもしれません。

デジタル依存とは、具体的にはどのような状態を指すと考えられますか?

香山先生:デジタル依存には明確な定義があるわけではないので、他のアルコール依存とか薬物依存とかのガイドラインを当てはめるしかないと思います。

道具であるはずのネットに、時間的にも心理的にも支配されている状態。さらにはネットで得られた情報、会話を、新聞などの既存メディアや対面で得られる情報や会話より信憑性が高いと感じたり、それに影響を受けたりする状態。

それによってネットなしではいられず、それがない状況では不安を感じて、日常生活に支障がきたされる。「ないならないでしょうがない」とか「今日はいいや」って思えない、それを求めてしまう状態がデジタル依存の一つの基準だと思います。

佐藤:生活の中の娯楽の範囲を超えて、何かトラブルが起きてくるようなら、少々危険な水準に至っているということでしょうか。

香山先生:私も相談を受けることがよくありますが、例えば、朝の出勤時間なのにSNSを見てしまって、ハッと気づいたら遅刻時間になっていたとか、それによって会社に遅刻ばっかりしてしまうとか。あるいは学校でも、SNSにはまってしまって、レポートの締め切りが守れないとか、毎朝必ず遅刻して怒られてしまう、とかもそうですね。

普通だったら、「まずいまずい」と思って自分でコントロールすると思うけど、それができない。どうしても見ずにはいられない。ちょっとした失敗じゃなくて、明らかに深刻な支障をきたしている場合は、専門の診療科を受診したり、適切な所で相談するなどの対応を行ったほうが良いですね。

「情報」は形のないものだが、実は依存を起こしやすい

佐藤:現実の生活の中で得られる情報よりも、ネットから得られる情報の方がその人にとって重要になってしまう時に、デジタル依存は起きやすいというお話を伺ってきましたが、ここからは、比較的若い世代が注意すべきデジタル依存についてお聞きしたいと思います。

香山先生:これまでの考えだと、タバコとかアルコールのように物質が脳に入って影響を与えるようなものの方が依存が起きやすくて、情報のように形のないものではそれほど依存は起きないと思われていました。しかし今、スマホなどのデジタル機器から得られる情報は、実はすごく依存を起こしやすいことが気付かれてきています。

スマホなどでは、ダイレクトに自分のもとへ情報が届いたという錯覚を受け易いですし、きれいなフォントや画像で情報が出てくるので、たとえ中身の無い内容だとしても信頼度が高まる傾向があります。

特にコミュニケーションツールやSNSだと、向こうにも人がいて色々な思いもかけない反応が来たりとか、あるいはそこからまた広がりがあったりするので、人は容易にそこにのめり込みやすい特質があると思いますね。

佐藤:スマホの普及率は20〜30代では90%を超えているといわれますし、多くの人がSNSを利用していますから、その中で起き得る依存は大きな問題ですよね。

香山先生:「ネットはリアルより信頼性が高い」と思い込んで心のバリアが崩壊すると、ネットの情報に重要な決定を左右されたり、誰にも話さない秘密をネットで語ってしまったりなどして、日常生活にも大きな影響を与える可能性があります。

また、SNSを利用する中で、「傷つけられた」「排除された」という体験も、リアル以上の強さで本人を苦しめてしまいますよね。「たかがネット」と考えて、距離を置ければ良いですが、そうできなくなってしまうことが問題です。

佐藤:ネットやSNSのやりとりがたとえ実態の伴わないものであっても、それを通して感じる楽しさや受けるストレスは、その人にとっては本物の体験ですよね。良くも悪くも刺激の強い体験をすると、その人の中でネットの存在感や重要度はより増してしまい、さらに依存の度合いを深めてしまいそうです。

香山先生:例えばギャンブル依存なんかを考えてみても、よく似ていると思います。問題がある人間だからとか、弱い人間だからなりやすいということではなく、誰でも依存状態になるリスクがありますよね。また、宗教のマインドコントロールなども問題になっていますが、人は幸せになりたくて、生活を豊かにしようと思って何かの宗教に入るはずなのに、知らない間にそれに支配されてしまって、もうそれでなしでは生きられないような状態になってしまう。

SNSなどのデジタル依存も同じように、最初から依存状態を望んでる人はいないのに、知らないうちに支配されてしまう、そうした危うさも合わせ持つものだと思います。

オンラインゲームなどのデジタルサービスを、子供が利用することのリスク

佐藤:近年では小中学生のおよそ7割がスマホを持っている、というデータがあるそうです。それによって子供たちが置かれている環境や、遊び方のようなものも変化してきていると思いますが、例えばオンラインゲームのようなものも子供に与える影響はあるのでしょうか?

香山先生:私の世代だとパッケージ化されたゲームで遊んだりしましたが、そういうものはストーリーがあらかじめ作られていて、エンディングも決まってたりしてますよね。もちろん、視覚や聴覚や思考力とか、いろんなものに働きかけてくるメディアなので、のめり込み度もすごく高いですけど、オンラインゲームの場合はパーティで組んだ人が思わぬことを言ったり行動したりするし、それによってマルチエンディングのようなこともあるので、インタラクティブ性や没入度のようなものは飛躍的に上がったんじゃないでしょうか。

大人にとってはオンラインゲームは娯楽の一つだと思いますが、子供の場合は配慮が必要かも知れません。両親からは「遠くに行っちゃダメよ」といわれていて、自分の足では町内からも出ないような子供が、オンラインゲームを始めて一緒に組んだパーティの人がエチオピアの人だったとかもあり得るわけですよね。

家族との旅行でちょっと遠くまで行ったことしかない子供が、いきなり地球の裏側にいるような人と隣にいるかのように一緒にゲームをするとなると、やっぱりその子の時空間の認識みたいなものは混乱してしまうと思いますね。

佐藤:スマホや世界的に有名なSNSを作った人たちは、サービスを世界中の消費者に提供するけど、自分の子供には実は中学に上がるまでは触れさせなかった、という話もありますよね。

香山先生:やっぱり特に子供の場合は、知識や成長に合わせた範囲で少しずつ広げて世界を広げていく方が、生物学的に理にかなってるということがあるんじゃないでしょうか。

例えば、小学校の遠足だと近くの山までとか、修学旅行でも同じ県内とか隣の県の少し離れた所まで一泊二日で行くとかね。中学になるとさらに遠くまで行って、高校になると京都・奈良みたいなところに新幹線で行くとか、少しずつ距離や時間が伸びていったりするわけですよね。

でも、インターネット上では段階的に距離や空間が広がっていく、ということはないわけです。そうした制限のない世界に生きているのが現代人だ、といってしまえばそれまでですが、人間は脳も心もそれに合わせては進化していませんし、デジタルネイティブといっても新しい人類になったわけではないので、子供のキャパシティを超えないように配慮する必要はあると思います。

シニア世代のデジタル依存の方が、実は問題が大きい

佐藤:デジタル依存のリスクは、その主なユーザーである若い世代が中心だと思われがちです。ここからは、先生が実は問題が大きいと指摘される、シニア世代が注意すべきデジタル依存について伺いたいと思います。

香山先生:シニア世代こそ注意が必要だと考えています。若い人たちは子どもの頃からネットに接し、それなりに痛い目にもあっているため、防衛する力も備わっていたり距離を置いたりしています。しかしシニア世代はそうした免疫がないため、「自分はすごいことを知っている」「すごい人とつながっている」「多くの人から必要とされ注目されている」とそこにのめり込んで万能感を得て、あっという間にマインドコントロールを受けたような状態になってしまう人が少なくありません。

実際に、学生が夏休みに帰省した時に、お父さんが「お前、〇〇は嘘なんだ!」と急に言い出してもう本当に困りました、というような話はよく聞きますよね。その点、若い人たちは色々嫌な目にあってきているから割とシニカルで、「あまりSNSでは大事なこと言わない方がいい」とか「鍵かけて友達にしか見えないようにしてる」とか「大事なことはやっぱりLINEでは言えないよね、会わなきゃダメだよ」みたいなこと言ってびっくりさせられることがあります。

佐藤:若い人たちは、道具としてのネットの使い方を経験の中で学んでいると思いますが、シニア世代はそうした学習がないままに、現代のデジタル環境に身を置いているということなんですね。

香山先生:私の患者さんでも、「テレビですごい人気の人が言ってました」という話をされるのでよく聞くと、YouTubeのことなんですね。最近ではテレビ画面にもネットの動画が映せるので、どれがどの情報なのか区別がついていないんです。

むしろ若い人の方が、「これはテレビで、 これはネットの動画で」とか、「この人はある程度信頼できるけど、この人は割とホラも多い人で」とか、「これはただの捨てアカウント」とか、そういうのを見抜けるけど、いわゆるデジタルバージンのシニアの方はそういうのが分らなかったりして、簡単に怪しい情報にはまってしまったりしますよね。リテラシーがまったく身についていないまま、ネットに接触するのは本当に危険だと思います。

佐藤:シニア世代の方が若い頃は当然ネットはないので、現代のように情報は多くなく、テレビや新聞が発信する限られた情報は正しいものとして受け取ってきたのだと思います。でも若い世代は情報が氾濫する時代を生きていて、そもそも情報は疑ってかかるという姿勢が身についていると思うんですね。シニア世代がネットの情報でもそれを正しいものとして鵜呑みにしてしまうのは、こうした時代による違いも大きいのでしょうか?

香山先生:すごくあると思いますね。情報が少なかった時代が幸せとは思わないけど、テレビが言うことを「本当かな?でもまあ、こういう風に言ってんだからそうなのかな?」っていう具合に、ちょっと眉に唾をつけながらみんなで共有してたわけですよね。

昔は今よりもテレビや新聞に権力があって、比較的多くの人がその情報を信じていたと思うんですが、同時にそうしたメディアの権威主義的な所に反感を持っていた人もいたと思うんです。だからこそ「テレビって実はいい加減で嘘ばっかり言ってる」のような話って、みんな飛びつきやすかったと思うんですよね。

今はテレビとか新聞で言っていことをまず否定するのが一つのコンセプトになっている人たちもいて、再生数を増やしているので、「テレビで言わないことを言ってくれてるから、ネットの方が信頼できる」のように感じる人もいますよね。特にシニア男性の場合は、「人が知らない情報を私は手に入れてる」という万能感や優越感が、のめり込む一つのきっかけになりやすいですし、そこからデジタル依存に繋がるリスクはあります。

佐藤:ネットにはあらゆる情報があふれているような状態で、言い換えれば、自分が信じたいことを肯定してくれる情報を見つけ出すことも可能ですよね。そうしたことも、リテラシーに乏しいといわれるシニア世代がネットの情報にのめり込んでしまう要因かも知れません。

香山先生:しかし、当然のことですがネットにある情報には、正しいものだけではなく、間違っているものや悪質なものもあります。極端な例では「国際ロマンス詐欺」のような詐欺の被害に遭ってしまうのも、誤った情報を信じてしまうことが原因です。また、今のウクライナとロシアの戦争を見ても、情報戦というか、お互いにフェイクニュースも含めた情報を出し合うのが一つの戦略になってしまっていますよね。

何を信頼性の担保にするのか、人によって今ものすごく違うんですよ。ネットの情報で何を信じて何を信じないかの判断は、シニア世代にとっては重要な問題だと思います。

佐藤:シニア世代でもSNS依存のようなものはあるのでしょうか?

香山先生:シニア世代の人、私の若かりし頃というか、遠くの人と手紙のやりとりをする「文通」というのがあって、そういうのは憧れだったわけですよね。それが今や、SNSだと瞬間的にできちゃうから、その喜びたるや凄いわけですよ。

私が診ていた主婦の方でも、ちょっとしたことを発信したら全国の人たちから反応があって共感されたりとか、ちょっとした体調不良のこと書いたら「私もそうなんです」って相談されて、今までの生活の中では感じたことのないような「みんなに必要とされてる実感」のようなものが初めて得られたっていうんですね。

こうしたことは比較的女性に多いのですが、「私の話を聞いてくれる人がいる」とか「自分を必要としてくれる人がこんなにいる」といった人と人の繋がりやコミュニケーションの中でのめり込んでしまい、デジタル依存のようになってしまうケースが多いですよね。

佐藤:多くの人に必要とされている実感は、普通に生活したりあるいは仕事をしている中では、なかなか得られないものですよね。

香山先生:現実生活の中では、特にシニア世代になってくるとだんだん「自分はもう必要がないんじゃないか」とか「自分の人生はつまらないんじゃないか」とネガティブに振り返ったりしますけど、その時にネットでちょっとでも必要とされたり、フォロワーが増えたりするとすごく充実した気持ちになってしまうんですよね。

「私の答えを待ってくれてる人がいるから」と不眠不休のようにそこにのめり込んで、完全に生活を崩してしまった人もいらっしゃいましたし、本当にシニアの人の方が、実はすごく心配です。

健康経営として経営者ができるデジタル依存対策

佐藤:最後はデジタル依存対策について伺いたいと思います。健康経営の一環として、食習慣や運動習慣の改善を促す企業ぐるみの取り組みは、現在では一般的に行われています。そのような形で、企業や団体が従業員や職員に対して、デジタル依存を低減したり、あるいはデジタル依存を事前に防ぐような取り組みは可能なのでしょうか?

香山先生:デジタル依存対策をデジタルで発信するみたいな、ちょっと笑い話みたいなことにならざるを得ないんですけど、まずは先ほどお話ししたように、ネットリテラシーが十分ではないシニア世代の方には、ネットの仕組みを知ってもらうことが大事だと思います。

例えば検索エンジンでも、まず広告が出ていて、その次は多くの人が見ているページが出ていたりするから、一番上にくるものは一番正しいものとは限らないということや、広告はテレビのCMみたいに全員に同じものがが出てきていると思い込んでる人も結構多いので、ターゲティング広告のように自分のアクセスしたサイトに基づいて広告が表示される仕組みがあるとかですね。

まことしやかに流される情報にはフェイクも含まれているのが当たり前の世界なので、疑心暗鬼で接するくらいがちょうどよいと思いますし、基本的なネットの仕組みのようなものは必修で教えなきゃいけないじゃないかと思います。

佐藤:まさか経営者が社員のスマホをいじって、「SNSの稼働時間に制限かける」みたいなことは当然できませんよね。でももし、休日もずっと家にこもってネットばっかりやってるような社員がいる場合、どのような形でデジタルへの依存度を低減したら良いでしょうか?

香山先生:デジタルはもちろん欠かせないものですし、ビジネスでもそれなくしては進まないのも確かですが、そうであればあるほど、それを中和するようなアナログ的な時間や、対面で何かをやるということを意識的に作るべきだと思います。

少し古臭くて陳腐かも知れませんが、社員旅行を企画するとか、どこか保養所のようなところで自然と触れ合う時間を作るとか、今の時代はむしろ、心のデトックスとして経営者がある程度「こういうのもいいですよ」とか「私も趣味で釣りをやってます」とかを話して、リアルで地に足のついた生活や、そういう時間を確保することの大事さを発信したり、準備してたりしなきゃいけないと思うんですよね。

佐藤:デジタルとアナログのバランスをとることが、デジタル依存を避けるためには大切なんですね。

香山先生:以前、私が聞いて「へーなるほど」と思ったのは、ある大手損害保険会社の話でした。その会社が本社に「整体」の部屋を設けたということなんですね。

今は障害を持った方を一定割合雇用することが義務付けられていますよね。視覚障害を持った方には整体師の免許を持っている方が多いので、そういう方を何人か雇用して、会社の中に施術をする部屋を設けて、社員の方は予約しておけばそこで整体を受けられる仕組みだそうです。

ボディケアのようなものは決してネットじゃできませんよね。整体の施術は実際に触らないとできないわけです。もちろんコロナの問題はあったそうなんですが、体という本当にアナログな、リアルなものに自分でも目を向ける時間を作れるのは、すごく良いことだなと思いましたね。

佐藤:障害者雇用に積極的に取り組みながら、同時にデジタルデトックスもできるとは、非常に良いアイデアですね。

香山先生:特にシニア世代の人だと、自分の必要性とか、自分がこの競争社会で生き残っていけないんじゃないか、という不安も持つと思いますが、例えば子供食堂や、高齢者の福祉施設などでボランティアをして、そこで「ありがとうございます」とか「助かりました」と言ってもらえるだけでもすごく嬉しいと思うんですよね。

ネットで「いいね」がつくのだけが良いわけじゃなくて、リアルな体験の中でのコミュニケーションって大事だと思うんです。今まではコロナがあって活動には制限が多い時期もありましたが、これからはボランティアのような機会も増えてくると思うので、企業経営をされる方もデジタルデトックスに繋がるような活動を積極的に提案されると良いのではないでしょうか。

まとめ

今回の香山先生のお話で特に印象的なのは、シニア世代のデジタル依存とその対策ではないでしょうか。

シニア世代の方の場合、そもそもネットの仕組みや距離感、または検索エンジンの使い方を十分に把握しているわけではなく、そのためにネットから得る情報に対して過度に重きを置いてのめり込んでしまうリスクが高いと言えます。

経営者の方は効率化だけを目指してデジタルに注視し過ぎず、アナログとのバランスをとる重要性にも目を向けてみてはいかがでしょうか。

(対談/佐藤 直人

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