経済アナリスト 獨協大学教授
森永卓郎氏
2023年の経済はどうなる?投資で円安や物価上昇に備える際のポイント

エモーショナルリンク合同会社代表の佐藤直人と経済アナリストで獨協大学経済学部の森永卓郎教授のインタビュー画像

止まらない物価高や2022年に猛烈な勢いで進んだ円安に対して、大きな不安を抱いた方は少なくないでしょう。

しかし2023年の経済は、様々な要素の裏付けから2022年とは全く違った動きを見せると予測されています。

そこで今回は、獨協大学の森永教授に2023年の経済動向、そして個人・企業としてできる備えについてインタビューしました!

取材にご協力頂いた方

経済アナリスト 獨協大学経済学部 教授
森永 卓郎(もりなが たくろう)

昭和32年7月生まれ。東京都出身。
東京大学経済学部経済学科卒業。日本専売公社、日本経済研究センター(出向)、経済企画庁総合計画局(出向)、三井情報開発(株)総合研究所、(株)UFJ総合研究所を経て、現在、経済アナリスト、獨協大学教授。

専門は労働経済学と計量経済学。そのほかに、金融、恋愛、オタク系グッズなど、多くの分野で論評を展開している。日本人のラテン化が年来の主張。

主な著書に『相続地獄』光文社新書2021年、『なぜ日本だけが成長できないのか』角川新書2018年、『増税地獄』角川新書2023年など多数。

目次

2023年は物価高が落ち着き円高への転換が見込まれる

佐藤直人(左)と森永卓郎氏(右) 撮影/安倍正晃


佐藤:それでは、最初に2023年の経済動向について、消費者物価指数や円安などの観点から森永先生の見解をお聞きしたいです。

森永教授:まず、消費者物価指数については昨年(2022年)の12月か、今年(2023年)1月くらいをピークに真っ逆さまに落ちていくと見ています。年末の物価上昇率は0%、あるいはマイナスになると思いますね。

理由としては、今回起こった円安の原因の2/3が資源高で、1/3は円安であったためです。国際商品取引の価格をチェックするとわかるんですが、実は資源高のピークはとうの昔に過ぎています。例えば原油はウクライナ侵攻で輪をかけて上昇し、10月に120ドルに達しましたが、1月時点では70ドル台です。もっと極端なのが天然ガスで、8月末がピークだった価格が今(2023年1月)はもう6割下がって4割ほどになっているわけです。

佐藤:物価高については、実はすでに落ち着いているのですね。

森永教授:はい。このように、今はありとあらゆる資源が大きく値下がりしているんですが、日本の物価に反映されるまでにはタイムラグがあります。物価高のピークが2022年の6月から8月くらいに来ていても、国内物価に反映されるのは2023年の1月か、2月くらいのタイミングになると思うんですね。それに2月は電気代も下がるので、消費者物価上昇率が低下するのは間違いありません。

加えて、OECDの経済見通しでも今年の年平均の消費者物価上昇率は2%と見ています。2023年1月時点で4%で、そこから平均が2%上昇するということは、年末は0%になっていないと平均2%にはなりません。なので、ある程度マーケットをきちんと見ていれば今後、物価上昇率が急激に下がっていくのは間違いないと考えられるわけです。

佐藤:なるほど。為替の動向については、円安のトレンドは終了したと考えて良いのでしょうか?

森永教授:為替に関しては、これから円高になっていくと思いますね。私はシンクタンク時代からずっと市場分析を続けているんですが、対ドル為替で一番説明力が高いのは日米の資金供給量の比率なんです。その理論価格でいうと、今は1ドル130円くらいなので、現時点での為替はほぼ理論通りの価格になっています。ただ、ご存知の通り為替というのは実需で決まるのではなく、99.9%投機で決まりますから、投機をしている人たちがどう考えるかがこれからの鍵になるわけです。

では投機筋が市場をどう捉えるか、となりますが、アメリカの金利は2023年いっぱいは高止まりです。後半はもしかすると下げにいく可能性もありますが、おそらくもうすぐピークでこれ以上は上がらないでしょう。一方、日本は現実的に考えて金利を上げられる状況では全くないんですが、仮に岸田総理がこのまま総理大臣を続けるとすれば、4月に黒田総裁が交代した途端、短気金利引き上げという暴挙に出るだろうと私は見ています。そうすると、資金供給の面で見ると日銀はすでに昨年の秋くらいからものすごい金融引き締めに出ているのに、金利を上げるとなればさらに締めなければいけない。ということは、強烈な引き締めはアメリカではなく日本で起こるわけです。

そうしたら投機をしている人たちは、「これはもう円だぞ」となる。相場は一度トレンドが出ると一方向へ強烈に進むので、1年前が115円ほどだったことを考えると、あっという間に115円は突破していくと思います。なので、年末には110円前後、もしかしたら110円を割り込むかもしれない、というのが私の見立てです。

米国株の大暴落が起こる可能性は非常に高い

佐藤:1ドル110円を割り込むとなれば、相当の下げ幅ですね。

森永教授:私は今後、米国株において大暴落が起こる可能性は極めて高いと考えています。OECDの経済予測ではアメリカもユーロ圏も成長率が0.5%となっていて、特にドイツとイギリスはマイナスと予測している。私は長いこと経済をみてきていますが、こんな予測が出たことは初めてです。

これまでアメリカで最大のバブルは1920年代で、それは自動車と家電によるものでした。フォードやGM、ゼネラルエレクトリック、ウェスティングハウス、ゼニスなどが悪かったわけではないんですが、それらの企業に異常に高い株価がついていた。そうしたら1924年10月24日の暗黒の木曜日、市場開始早々に大量の売り注文が株式市場に入りました。これはゼネラルモーターズを売っていたんですが、そこからドカンと下がっていったん切り返し、1930年からまた暴落がずっと続きました。

そして今、アメリカ経済が市場最大のバブルを迎えていた中で、ニューヨークダウは昨年の頭に2万ドル台半ばにいったん下がり、そこから戻すという1920年代とそっくりな流れをたどっているんです。ちなみに1929年10月からの暴落が底値を打ったのは1932年7月だったので、3年近くもずるずる下がり、そこでついた株価は暴落前の90%ダウンで、実に1/10になっていました。そこまで行くかどうかはわかりませんが、一度下げトレンドが始まるとかなり長く続くでしょう。

佐藤:確かに、相場は過去の動きを繰り返す傾向があることを考えると、今のニューヨークダウの動きは見逃せません。

森永教授:米国株の大暴落が起こると考えているもうひとつの理由は、今までアメリカで起こっていたバブルがITバブルであることです。1920年代と同様に、GAFAに加えてマイクロソフト、テスラといった一部の企業にとてつもない株価がついていた。テスラなんて、百数十万台しか作っていない自動車メーカーなのに、世界の大手自動車メーカー6社の時価総額よりも高い株価がついている、なんておかしなことが起こっていたんです。

それが今、明らかに変化し始めています。テスラが叩き売りを始めたとか、Amazonが1万8,000人クビにしたとか、Twitterも従業員の2/3をクビにするといったように、もうボロボロになってきているんです。メッキが完全に剥げた時には、一気に本来のところに戻っていくでしょう。ただ、そこから先は投機をしている人たちの思惑次第なので、どこまでオーバーシュートするかはわかりません。

それに最近、厚切りジェイソンさんの『ジェイソン流お金の増やし方』という本がベストセラーになりましたよね。そういうことが起きた直後は決まって暴落するんです。女性誌に「私は株で1億円稼ぎました!」という主婦の話が出たりするのもそうで、今までに何度も経験してきましたが、暴落が近い時はそういうことが起こる。今がまさにその状況なんです。

ちなみに、1929年の暴落が起きる前、ジョン・Fケネディの父であるジョセフ・ケネディはウォールストリートで靴磨きをしてもらおうと思って靴を出したら、靴磨きの少年に「旦那、今日の相場はどう動きますかね?」と聞かれて危機感を持ち、持っていた株を全部売りました。それで彼はケネディ家の財産を守ったんです。なので少なくとも、個人投資家はポジションを思いきり減らすべきです。私は株主優待でどうしても必要なものを除いて、全部売りましたよ。

佐藤:米国株を持ち続けていても、良いことはなさそうですね。しかし、見方を変えれば2023年は個人投資家にとってもチャンスの年となるのでしょうか?

森永教授:そうですね。この状況は、今年最大のチャンスが訪れる前触れとも考えられます。私は株式投資をやめろと言っているわけではなく、安い時に買って高い時に売りましょう、という基本的なことを言っているだけなんですね。どこまで価格が下がるかはわかりませんが、ニューヨークダウなら2万5,000ドル、日経平均なら2万円を切れば、少なくとも理論価格より安くなるわけです。だから、仮にそこから下がっていくとしても損な値段で買うことにはなりません。私もニューヨークダウが2万5,000円、日経平均が2万円を切ったら少しずつ買い戻していくつもりです。

ただし何度も言いますがどこまで下がるかはわからないので、一気に買うのは危険です。今は買うべき時期ではないし、特に、アメリカの株式や投資信託は株安と円高のダブルパンチになってしまいますから買ってはいけません。逆に言えば、円高になってニューヨークダウが下がっている時は絶好のチャンスです。今はそのタイミングに向けて態勢を整える時期ですね。

不況によって追い詰められることで経済社会が大転換を起こす

佐藤:今後の経済動向の見通しがある程度でもできていると、対策も立てやすくなりそうです。個人投資家だけでなく、企業として米国株の大暴落に向けた備えをするとしたら、どういった動きが考えられるのでしょうか?

森永教授:前提として、不況の時というのは経済社会の大転換が起こっている、ということから説明しましょう。今から100年ほど前は、世界恐慌と日本の昭和恐慌が同時に始まって非常に景気が悪かったわけですが、実は100年前に大量の創業があったんです。だから今年100周年を迎えている企業がとてつもなく多くて、例えばグリコやパイロット、トンボ鉛筆、マルマン、白洋舍なんかもそうで、ものすごい数にのぼります。ではなぜ不況の最中、多くの企業が生まれたかというと、ライフスタイルが大きく変わったためです。

日本は明治維新で西洋化したのではなく、庶民は不況の中、和洋折衷によって一気に入ってきた西洋のライフスタイルに触れました。それで着物ではなくて洋服を着るようになり、ペンや万年筆で文字を書くように生活様式が変化し、新しいニーズに合わせて次々に企業が生まれたのです。人間は追い詰められないと変われないので、不況の時に構造転換するというのはある意味当たり前なんです。

佐藤:国民のライフスタイルの変化が社会、そして企業の変革にまで影響を及ぼしていたのですね。

森永教授:国民のライフスタイルに関する基本的なキーワードは大規模から小規模へ、そして集中から分散へ、そして中央集権から分権です。企業の経営がガラッと変わる時には国民の間でも同じことが起こります。

例えば今、東京都心で住宅地を購入しようとすると坪500万円かかります。でも、私の家がある所沢市の西の外れは坪50万円ほどで、そこから少し行った埼玉県のときがわ町は坪5万円なんですよ。では購入するならどっちが良いですか、という話ですが、今まではときがわ町から東京まで通勤するのは2時間くらいかかって、とてもではないですが現実的ではありませんでした。しかし、今はまだ3割くらいの人ではあるものの、仕事がリモートになって通勤の必要がなくなってきた。そうすると、ときがわ町なら東京の100倍土地を買えて、しかも綺麗な川が近くにある環境抜群の立地だ、ということに気づく人が少しずつ増えてきているんです。

私も以前は平日ずっと東京にいて、事務所も残してはいますが、今ではほとんど使っていません。基本は全部所沢に仕事の拠点を移して、東京に行くことは出稼ぎと呼んでいるんですが、たまに出稼ぎに行けば済むようになりました。ここまでできるのは一部の人でしょう、と言われるかもしれませんが、私の周りでもIT関係の人はそうなっています。それ以外でも、研究員や私のようなメディアの仕事をしている人も、リモートで全然問題ないわけです。

佐藤:確かに、リモートワークの普及に伴うライフスタイルの変化は多くの人が経験しました。

森永教授:こうやって技術が進歩してくると、当然新しいライフスタイルも出てきます。

今までの企業経営というのは、社員を全員集めてトップが「契約取るまで帰ってくるなよ」と叱咤激励して会社を引っ張るようなスタイルでしたが、今後そういうスタイルはなくなっていくでしょう。

加えてWeb3.0に移っていくことも非常に大きくて、今まではITといいながら、その実は中央集権だったんです。例えば日本のゲームメーカーがゲームソフトを作って売っても、スマホでダウンロードされる時には自動的にAppleやGoogleに3割ピンはねされる仕組みでした。ビットコインも、なんだかんだいって最初に作った人がぼろ儲けする仕組みだったんです。それがWeb3.0の時代になると、本当に仕事をした人に付加価値が行くようになります。イーサリアムもそうですし、最も象徴的なのはNFTですね。だから、無名の子どもが作ったデジタル画像に100万円の価値がつくような時代になっているわけです。

こういった仕組みはふるさと納税でも活用されるようになっているし、芸能界でも同じことがいえます。昔は芸能事務所とレコード会社が選んだ人だけを長い時間とお金をかけて育て、レコードを作ってプロモーションビデオを作って、と売り出していました。ですが30年前はせいぜい100人ほどしかいなかったアイドルが、今では何十万人といるわけです。この間は、素人がドライヤーを顔に当てて歌手のものまねを数分やっただけで、投げ銭で30万円稼いだ、という話も聞きましたよ。

佐藤:こうしてお話を伺うと、個人が活躍しやすい社会が近づいていると感じられますね。

不況はライフスタイルの変化に伴うビジネスチャンスの到来

森永教授:そうやって権力集中から分散へと、世の中は今、大きく変わっていく流れにあります。だから、変わることをサポートするようなビジネスは狙い目だと思いますね。例えばIT機器でいえばIOT関連なんて日本企業は得意だし、末端の部分の機器開発もずっとやってきたノウハウがある。サービスの部分はもちろん、これから先もう少し技術が進めば、10年も経たずにドローンでの配送ができるようになるでしょう。

そうなれば、山の中に住むことだって低いハードルでできるようになります。今って山ひとつタダに近い価格でも買えるので、あとは電波を引っ張ってきてネットをつなげば何の問題もありません。山は周りにいっぱい木があるから、それを切り出して薪にすれば暖房代が浮くし、私の友人にも山に住んでいる人がいます。彼は猪とか鹿を罠にかけて獲っているので、結構肉も食べていましてね。そうやって捕まえた鹿の角を売っている人や、中には海辺に住んで流木を売っている人までいますよ。

佐藤:既存の概念を覆すような、新たな生活のスタイルが次々と生まれそうですね。今後、そういった今まで考えられなかったような生活をサポートするビジネスも需要が見込まれるのでしょうか?

森永教授:そうですね。今までマニュアル労働でつらい仕事をしてきた若者たちも、最近「これはおかしいぞ」と気づき始めていますから、需要はあると思います。それに、これから人工知能とロボットがどんどん進化して、人工知能が人間の能力を上回るシンギュラリティが起こる。これまでは40年先といわれていましたが、今ではもっと早くに来るだろうとされています。人によってはあと10年ちょっとと予想している人もいて、変化はもうすでに始まっているんですよ。

今後は世界中を同じプラットフォームが支配するのではなく、いろいろな人が無数のプラットフォームを作っていく社会になると思います。みんなが東京や大阪に満員電車に乗って通勤していたライフスタイルが大転換を迎える、その時に焦点を当ててプランを練りビジネスを始めれば、大きなチャンスをものにできるでしょう。


2023年に米国株の大暴落が起こるとすれば、その前に備えておかなければいけません。

加えて近い将来、シンギュラリティによってライフスタイルの大変革が起こることが確実視されています。ライフスタイルの変化が起これば、100年前と同様に多数の創業が見られるかもしれません。

企業経営者や起業家の立場としては、不況の時こそビジネスチャンスと捉えて備えておきたいですね。

(対談/佐藤 直人

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