九州大学 カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所 准教授
高橋幸奈氏
研究が進む太陽光発電。膨大な光のエネルギーは社会をどう変えるか

太陽光発電というと、広い土地に大きな太陽光パネルがずらっと並んでいる様子や、屋根の上に乗ったソーラーパネルがまず思い浮かぶ人は多いでしょう。しかし太陽光発電の研究開発が進むと、高効率に発電できる小型化された太陽光パネルや、普通の窓のように可視光を通す太陽光パネルが実用化されるかもしれません。

そこで今回は、九州大学 カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所の高橋幸奈准教授に、そうしたクリーンエネルギーの課題や将来性について伺いました。

社会の様々な場面で応用できる可能性の高い技術なので、興味を持って見ている人も多いのではないでしょうか。

それでは早速、インタビューをご覧ください。

取材にご協力頂いた方

九州大学
カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所 准教授
髙橋 幸奈(たかはし ゆきな)

博士(工学)。2002年東京大学工学部応用化学科卒業、2004年同大学大学院工学系研究科応用化学専攻修士課程修了。2007年同博士課程修了、同大学生産技術研究所特任助教。2010年8月九州大学大学院工学研究院応用化学部門助教。2017年10月より現職。2019年10月から2023年3月まで科学技術振興機構 さきがけ研究者(兼任)。

専門は、光電気化学、光触媒、エネルギー変換、機能性ナノ粒子。近年は特に、金属ナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴に着目し、新規な機構による、光電変換、物質変換、高感度センシングなどの開発に従事し、光エネルギーの有効活用を目指している。

高橋幸奈研究室

世界の年間使用量の5,000倍のエネルギーが太陽光として降り注いでいる

エモーショナルリンク合同会社取材担当(以下EL):改めて、今なぜクリーンエネルギーが必要とされていると考えられますか?

高橋准教授:まず現在の世界において、エネルギーは主に化石由来の燃料が使われているんですけれども、これは将来枯渇するといわれておりまして、それに代わるエネルギーが必要となっているということですね。その中でも原子力などは色々と安全性の面で問題がありますので、そうした中でクリーンなエネルギーとして再生可能エネルギーが注目されてきているということだと思います。

EL:化石燃料は無限に使い続けられるわけではありませんし、脱炭素の面でもクリーンエネルギーへの注目度は高いですよね。

高橋准教授:再生可能エネルギーは太陽光以外にも風力ですとか地熱であったり色々あるんですけれども、そうした中で我々が注目してるのは太陽光です。エネルギー保存法則を考えた時に地球の中で得られるものには限界があると思うんですけれども、太陽光は地球という閉鎖系の外から得られるエネルギーですので、石油資源のように枯渇することもありません。年間の世界の使用量の約5,000倍ぐらいの膨大なエネルギーが、太陽光として降り注いではいるんです。

しかし太陽光はエネルギー密度的にはそんなに高くないので、それを高めることで効率的に光のエネルギーを集めて、電気のエネルギーに変えることができるんじゃないかと考えています。こうした太陽光をうまく活用できれば、現在あるエネルギー問題の解決にもつながるのかなと思います。

短い日照時間、狭い土地…。日本は太陽光発電に向いていない?

EL:日本でもクリーンエネルギーはすでに社会の中で使われていると思いますが、化石燃料をはじめとした従来のエネルギーに代替するところまでは至っていないように思います。クリーンエネルギーが現在置かれている状況や、課題について伺いたいと思います。

高橋准教授:太陽光や風力などのクリーンエネルギーは色々あると思うんですけれども、それらは供給が不安定というところが一番今ネックになってるのかなと思います。特に日本は晴れている日が意外と少ないといいますか、東北や日本海側は曇りとか雨や雪の日も多いですし、関東でも例えば梅雨時では晴れる日というのは結構少ないんですよね。年間通して安定して供給するのが難しいっていうところが一つあると思いますですので、もっと普及させるためには発電の効率を上げるだけではなくて、発電したものを蓄電するといいますか、二次電池のようなものと組み合わせてうまく使うということが重要になってくるのかなという風に思っています。

EL:確かに日本は、年間通して各地域で平均的に晴天に恵まれている国ではありませんね。少し飛躍しますが、例えばサハラ砂漠のような土地の方が太陽光発電は行いやすいとか、いっそのこと人工衛星に載せて宇宙で太陽光発電してしまった方が良かったりするのでしょうか?

高橋准教授:晴れる日が多い方がもちろん良いのは間違いないんですけれども、やはりそのエネルギーはその使う場所と発電する場所との位置関係とかもありますので、一概にシンプルに「晴れる日の多い土地が向いている」などの相関があるわけではないと思います。サハラ砂漠のような場所だと、砂で劣化するなどの問題もありますよね。日本の場合は、例えば海面や湖面などをうまく利用して、太陽光パネルを並べて発電する方法も研究がされてると思います。

また、宇宙開発に関してはそこまで詳しくないので何とも分からないんですけれども、やはり人工衛星とかで発電をしても、それをどうやって送電するのかという問題が起きると思います。何か他のエネルギーに変えて送電するとなると、結局は光と同じ問題で、ちょっと曇ってる時はできなくなったりする可能性が高いので、現在は地上で発電した方が効率が良いということになると思います。

EL:天候の問題は、解決するというより受け入れるしかないと思いますが、そんな日本でクリーンエネルギーが普及するためには何が必要だと考えられますか?

高橋准教授:まず太陽光発電の面から見た場合ですが、太陽光のエネルギーの密度を高めることで、高効率に光エネルギーを利用することが課題だと思います。これまで太陽電池ではあまりうまく使えてなかった微弱な光や、可視光に限らず近赤外とか一光子あたりのエネルギーが小さい光もうまく捉えて有効活用する技術を確立していきたいと考えています。そうして太陽電池の効率を上げることのほかに、太陽光発電の面積を増やすことも同時に必要なことだと思っています。

また、日本は比較的晴れの日が少ないというところで、現在の太陽電池にはデメリットがあると思うんですけれども、広く見れば地熱とかは火山が多い分可能性はあると思います。太陽電池以外のものをバランスよく使っていくことが日本は大事なのかなと思います。

より高性能の太陽光パネルは、社会の主役となるクリーンエネルギーとして期待される

EL:太陽光は開拓し甲斐のある魅力的なエネルギーなんですね。今後技術が進み太陽光発電がより普及すると、日本の社会はどのように変わると考えられますか?

高橋准教授:太陽光の中で半分ぐらいは近赤外光から赤外光といわれてますけれども、その波長が長い所は一光子あたりのエネルギーが小さいので、今まではあまりうまく使われてきてなかったところだと思うんですね。それが今後新しい技術でうまく利用できるようになりますと、太陽光の総量自体はかなり大きいものですから、エネルギー自給率を上げることができるんじゃないかなと思っています。

エネルギー庁のホームページを見ますと、2019年のデータで日本のエネルギー自給率って12.1%なんですよね。これはよく低いといわれている食料自給率よりも更に低くて、1/3ぐらいしかありません。例えば今ロシアとウクライナで紛争が起きていますけれども、そういった外的要因に日本のエネルギー事情がものすごく大きく影響を受けるという意味では、国防の面でもやはりエネルギーを自分のところでまかなうことはすごく大切だと思います。

あとは、エネルギーが自前でまかなえるということは、国内でいろいろな産業を興すことにもつながると思いますので、他国になるべく頼らずに自然のエネルギーで自国のエネルギーをまかなうことができることは、すごく大切になると思います。

EL:太陽光発電の技術開発には、学際的な連携や企業との共同研究なども重要になるのかなと思いますが、そうした取り組みはすでにあるのでしょうか?

高橋准教授:我々は金属ナノ粒子で金を使ったりするのですが、今はレアメタルの価格が結構上がっていますよね。今までは有機色素を使うよりも金の方が安いということがメリットだったんですけれども、その価格が上がってきてしまっていますので、逆に有機系のものとうまく組み合わせられたらと思いますし、今後は細胞とかそういったものから取り出したような酵素なども組み合わせていけたらいいなと考えています。

我々のグループとの共同研究関係にあるのは、大日本塗料という塗料の会社です。金属ナノ粒子の色材としての応用可能性に関して一緒に研究をしています。やはり有機色素とかに比べて安定性が高いのと、あと同一の材料で紫外から近赤外までの色を作り分けることができますので、そういう意味で金とか銀とかは高級な素材ではあります。けれども、合成コストが安くて安定性が高い色素としての応用が、企業の方は期待されているのかなと思います。学会とかでよくご一緒していた先生が立ち上げたベンチャーなんかだと、金属ナノ粒子ですから導電性があるインクというようなものを開発されてる先生もいらっしゃいますね。

EL:この記事をご覧の読者の中には、もしかしたら太陽光パネルに対して否定的な考えをお持ちの方もいるかもしれません。実際に、太陽光パネルを設置するとなると、地元民の方の納得を得るための運動も必要になる、などの話も聞きます。先生のご専門とは違うかもしれませんが、そうした普及に関わるような活動はされているのでしょうか?

高橋准教授:直接関係するかは分からないですけれども、サイエンスカフェみたいな感じのイベントで、一般の人々に研究の内容を理解していただく機会を設けることはあります。

また技術的な面から申し上げれば、先ほどの金属のナノ粒子は、近赤外光とかを選択的に吸収させることもできて、色材としてそういう研究も行っているという話なんですけれども、ということは近赤外光のエネルギーだけを選択的に太陽電池に回して、可視光はそのまま透過するパネルを作ることも理論上可能だと思います。例えば、ビルの窓ガラスで近赤外光だけで発電しながら、可視光はそのまま取り入れるですとか、あるいは畑とか田んぼみたいなところでも近赤外光だけを上のパネルで吸収して太陽電池に回すけれども、可視光とかはそのまま下の植物にあてるという設計も可能かなと思っています。

また、高効率に光エネルギーを利用できるようになれば、太陽光パネル自体を小型化することも可能です。従来は広い面積や広い土地がどうしても必要だったわけですけれども、小型化することで、身近なところで必要なだけ発電できるというスタイルが今後は可能になっていくのではないかなと思っています。

まとめ

地球に降り注ぐ太陽光は、人類が年間に使うエネルギーの5,000倍ものエネルギーを持っており、その膨大なエネルギーをより高効率に電気に変換できる技術が将来的には実用可能と言われています。

それによって、現在あるエネルギー問題や、太陽光発電を行う際の土地の確保などの問題に、解決の光が差してくるのではないでしょうか。より身近に太陽光発電を利用できる日が来るのも、遠い未来の話ではないかもしれません。

(取材・執筆・編集/エモーショナルリンク合同会社)