同志社大学政策学部
足立光生教授
金融リテラシーとは?身に着けるべき理由を解説

今回は同志社大学の足立光生先生にインタビューをしてきました。

足立先生は大学の政策学部に所属されていて、資本市場を専攻されている教授です。

そんな足立先生に伺った話は、将来に備えてお金を用意したい人が気になる「金融リテラシー」についてです。

「そもそも金融リテラシーって何?」

「金融リテラシーを身に付けると、どういうメリットがあるの?」

そんな疑問を抱えた方に向けた内容になっています。

では早速見ていきましょう。

取材にご協力頂いた方

同志社大学大学院総合政策科学研究科/同志社大学政策学部 教授 足立光生 (あだちみつお)

外資系金融機関勤務を経て、京都大学大学院経済学研究科博士後期課程修了。博士(経済学)。

現在の研究テーマは「持続可能な社会を真に実現するESG経営」等。

これまでの刊行書籍(いずれも単著):『金融工学を勉強しよう』(日本評論社)、『金融派生商品の価格付けに関する戦略的考察』(多賀出版)、『テキストブック 資本市場』(東洋経済新報社)、『先輩!ビジネスセンスの磨き方を教えてください! 起業からイメージする金融経済教育』(中央経済社)

金融リテラシーとは?

エモーショナルリンク取材担当(以下EL)足立先生、本日はよろしくお願いいたします!本日は資本市場を専門とされている足立先生に、初心者向けの投資方法についてお話を伺いたいと思います。

足立先生:こちらこそよろしくお願いします!

ELそもそも「金融リテラシー」とは、どういった意味なのでしょうか?

足立先生:一言に金融リテラシーといっても考え方は様々です。

例えば、我々が日々生活していく中で「お金」の流れを的確に把握して、管理していく能力も金融リテラシーといえます。また、未来を見すえて、いま目の前にある「お金」を、何に、どのように投資していけば有効に活用できるかを判断する能力も金融リテラシーと考えられます。

特に投資については、初期的な導入部分として投資へのアクセス方法、例えば証券口座の開き方や、市場における注文の方法などを知ることも金融リテラシーといえるでしょう。

また、実際に投資をする際には経済全般、ビジネスに関する深い知識や勘所も必要であり、このような知識等も金融リテラシーに含まれると考えられます。

EL金融リテラシーといっても正確な定義が存在するのではなく、様々な考え方があるんですね。

それでは、なぜ日本国民は金融リテラシーを身に付ける必要があるのでしょうか?

足立先生:その理由は、もちろん「国民一人ひとりがより良い人生を送るため」ということでしょうが、実はもっと大きな意味で、社会全体からの期待もあるように思います。

例えば「失われた30年」という言葉をよく耳にします。この言葉が示すように、過去30年間を振り返ってみても、残念ながらわが国の経済において、競争力が着実に低下していることは事実です。その背景の一つとして、経済の成長に向けて、本来不可欠な「投資」という概念が、ごそっと抜け落ちていた事が考えられます。

ELなるほど、金融リテラシーを身に付けることは、国民に対して社会から期待されていることなんですね。

経済成長には投資が不可欠とのお話を伺いましたが、実際に投資へお金が回らないと、どういった問題が生じるのですか?

足立先生:例えば新しいアイデアや技術が生まれ、新しい産業の息吹があるとします。国民がそれについて、「どのように転ぶかわからない、わからないので放っておこう」という姿勢を続けていけばどうなるのでしょうか。それでは十分な投資がなされず、経済の発展も限定的なものとなります。

確かに、「この事業は投資対象として適格か」なんてことを考えるよりも、いまあるお金を投資に回さずに、預貯金として置いておくほうが楽なのはいうまでもありません。ただし、こうした甘えに似た感覚、すなわち、投資をするのは「自分でなく、自分以外の誰か別の、専門的知識を持つ人」という感覚が、経済の発展を阻害してきた要因とも考えられます。

EL国民が投資に参加すれば、より経済は発展する可能性があるのですね。

足立先生:さらに現代の投資では、投資先の収益性だけでなく、事業が社会にどのようなインパクトを与えるのか、「持続可能な社会」を築くか、といった判断も求められています。

このように国民を主体として、新しい経済活動の価値をきちんと見極めて育てていくために、投資が必要とされており、その解決策の一つとして、国民が金融リテラシーを着実に身につけていく必要があると考えます。

金融リテラシーを身に付けるには?

EL:金融リテラシーの必要性について理解できました。それでは、具体的に金融リテラシーを身に付けるにはどうすれば良いのでしょうか?

足立先生:一般的に、金融リテラシーを高める必要性はよく指摘されています。ただし意外に思われるかもしれませんが、これまでもわが国では金融リテラシーを育む機会が多く、そしてそれらは「社会のあちこち」に散在していたように思います。

ELそうなんですか?これまで金融リテラシーを身に付けるような機会はほとんど設けられていないと思っていました。

足立先生:例えば学校では2000年代以降、有志の先生が独自に行う投資教育、外部からの出張講義、あるいは様々なコンテストなどを通じて金融リテラシーを育んできた可能性もあります。また、社会に出てその必要性を痛感した方々は、興味あるセミナーに参加してみたり、新しい事象をわかりやすく解説している書籍などを読んで独自に勉強してみたり、という人も結構多いのではないでしょうか。

ただし、残念なことに、そうした知識は往々にして「断片的」なものとなってしまい、「体系的」な知識にはつながらない可能性もあります。

そのような意味で、2022年4月に高校で本格的に始まった金融教育は、「体系的」に教育内容が設計されており、わが国の金融リテラシー向上にかなり貢献することが期待されます。

EL高校の家庭科の授業で、金融教育が取り入れられたという話は聞いたことがあります。

高校の金融教育は、金融リテラシーを身に付けるには十分な内容なのでしょうか?

足立先生:金融教育は重要ですが、「教わる」という座学に付け足して、「自身がどのように投資に向き合うか」を、各自それぞれが考えていくアクティブラーニングも必要と思います。

とはいえ、学校であれば、まだ社会に出ていない学生さんに実際に投資を促すことは、さすがにできません。そこでお薦めは、実際にお金を使わない「模擬」を活用することです。

EL模擬投資!実際のお金を投資せずに、投資の練習をするんですね。

足立先生:実際の投資を行わなくでても、「模擬」を通じて、投資を「主体的に」考えることで、金融リテラシーをかなり高める可能性があります。

私も20年以上前から大学で、様々な「模擬」を学生さんに促してきました。いま大学のゼミで実践しているのは「起業の模擬を通じてビジネス全体を俯瞰的にとらえる」ことであり、これについては昨年私が出版した本にもまとめています(足立光生著『先輩!ビジネスセンスの磨き方を教えてください! 起業からイメージする金融経済教育』、中央経済社)。このように一言で「模擬」といっても、実際のところ多種多様です。

EL:模擬投資にもさまざまな方法があるんですね。初心者が取り組める、おすすめの模擬投資はありますか?

足立先生:ここでは投資に関してもっと初歩的に、簡単にできる「模擬」を一つだけ紹介しましょう。

それは上述の本の中でも少し触れていますが、模擬投資を行い、それと同時に「日記をつけてみること」です。まず、何かに投資したつもりになって、投資対象を一つ決めます。対象は個別銘柄でも、平均株価でも、あるいは外国為替市場のドル円相場でも何でもかまいません。一例として個別銘柄とするならば、ノートに当日の終値を最初に記し、次に「なぜ昨日に比べて株価が上昇したのか、下落したのか」を1行ほどの日記にまとめます。

すると、たとえ模擬であっても「本日の株価は上がっている(下がっている)が、この企業に、あるいは世の中全体で、いったい何が起きたのだろう」と自ら主体的に企業経営や経済の動きを確認する機会となります。新聞を読んだり経済ニュースを見たりする良い習慣にもつながります。

また、模擬投資を行うことで、新たな自己発見にもつながります。相場が思い通りに進んでいる時に、あるいは相場が思い通りにいかない時に、ご自身がどのような感情を持ったり、模擬投資のなかでどのような売買行動をとったりしてしまうのか、模擬投資を通じて確認してみましょう。

あわてる必要はありません。実際に投資をする前に必ず模擬投資をして、ご自身が「どのように投資に向き合うか」を確認しておきましょう。

EL経済のニュースを見たり、値動きの要因を自分なりに考えることに繋がるので、とても良い勉強になりそうですね!

初心者に向いている投資、向いていない投資とは?

EL金融リテラシーを高める一環として、実際に投資を始める人もいますが、注意するべき点や、しない方が良い投資方法はありますか?

足立先生:実際に投資を始めるにしても、投資は、初級編から上級編まで様々と考えられます。

EL投資にも難易度があるんですね。初級編は具体的にどのような投資になりますか?

足立先生:実際に投資する際、投資対象も様々です。ここでは例えば簡単なものとして個別銘柄への投資を考えてみましょう。最初は決して無理をせずに、余裕のある範囲で取り組むことをお勧めします。

いうまでもなく銘柄を選ぶ際にも趣味や、関心のあるテーマに通じる銘柄から始めることが良いでしょうね。ご自身がそもそも興味のわかない業界の企業は、たとえ周囲の評判がよくても避けておくことです。

また、投資の初心者に関わらず、相場を読むことは本当に難しいものです。一般的には「自信を持つこと」は良い事ですが、相場において自信過剰となることは禁物です。

EL興味のある分野であれば、情報収集もしやすくなりそうですね。

上級編の投資は、どういった内容になりますか?

足立先生:上級編の投資も様々ですが、いわゆる金融派生商品(デリバティブ)に関する投資がその一つです。

投資をはじめる人が、いきなり上級編の投資に手を出すことは危険で、金融派生商品については、個別銘柄に比べて複雑なものが多く、高利回りの投資のつもりで投資していても、後になっていきなり損失が噴き出す、といった場合もあります。

EL突然大きな損失が生じるのは怖いですね……

足立先生:デリバティブについては、金融工学という学問を背景としていますので、金融リテラシーといっても、少し違う金融リテラシーを必要とします。そのため苦手意識を持つ人も多いかと思います。

ただし、いくら苦手意識があっても、デリバティブに投資する際は、「その商品の構造はいったいどのようになっているか」を必ず理解するように努めてください。私もいまから18年前にそのようなメッセージを本として出版したこともあります(足立光生著『金融工学を勉強しよう』日本評論社)。

デリバティブに投資をする際には、投資しようとしている商品の構造をしっかりととらえてから、臨む必要があります。

EL:投資をしようとする商品の中身について、十分に理解していることが大切なんですね。

今後の大きなテーマは「持続可能性」

EL最後に、これから投資で資産形成をする人に対して伝えたいこと、投資を開始する人にワンポイントアドバイスをお願い致します。

足立先生:先にも述べましたように、資産形成を目的として行われる個人の投資のなかにも、社会全体から大きな期待が寄せられています。

そこには、いうまでもなく投資の「質」に関する期待もあります。

個人が、自らの金融リテラシーを十分に活かして、より良い投資先を見抜くことは、個人のよりよい資産形成につながるのはもちろんですが、「良いもの」と「そうでないもの」が市場で峻別される過程を通じて、より良い社会を築くことにもつながるからです。

EL社会全体を発展させるためにも良い投資先を見つけることが大切で、そのために金融リテラシーを身に付けるんですね。

足立先生:特に、これから投資によって資産形成を試みる方は、投資先が「持続可能な社会に貢献するか」を見極めることも大きなテーマとなるでしょう。

例えばそこには、持続可能な社会に向けて全身全霊をもって取り組んでいる企業と、そうでない企業とをきちんと区別することも求められています。すなわち、社会の一構成員としては当たり前のことですが、投資をする方には、「持続可能な社会」を築く主体者としての期待も寄せられているのです。

多くの方々が的確な金融リテラシーを身につけて、的確な投資を行うことで、今後の素晴らしい未来が切り拓かれていくことを願っています。

EL:近年はESG投資(環境・社会・ガバナンスを考えた投資)もトレンドとなっているため、持続可能性については重要な要素になりそうですね。

本日は取材に答えていただき、ありがとうございました!

まとめ

今回は資本市場の専門家である、同志社大学の足立光生先生にお話を伺いました。

金融リテラシーの一つには「経済価値を見極める力」もあり、経済を成長させるために必要になります。

日本でも昔から金融リテラシーを身に付ける機会は多くあり、近年では高校の授業でも金融教育が導入されました。

また、初心者がこれから投資を始める場合にたとえば個別株投資を含めて投資先を吟味する際は、「持続可能な社会に貢献するか」を意識することも大切です。

(取材・執筆・編集/エモーショナルリンク合同会社)

※当記事は、足立光生教授公式サイトでもご紹介いただきました。