早稲田大学 入山章栄教授
大分大学 加納拡和准教授
スタートアップの成功には立地条件の影響が大きい

コロナ禍の影響により、多くの企業がオンライン上へのビジネス展開を加速させつつあります。それに伴い、リモートワーク社員が多くなった各企業では、コスト削減のためオフィスを閉鎖しコワーキングスペースやバーチャルオフィスを活用、もしくは郊外へ移転する動きが目立つようになっています。

しかしある研究によると、スタートアップの多くは特定の立地にオフィスを構える傾向にあるようです。

オンラインビジネスが加速する現代においても、起業の成否に立地条件は関係するのでしょうか。そのヒントに迫るべく、今回「日本の都市型スタートアップ企業の立地戦略に関する大規模データ分析による解明」についてご研究されている、早稲田大学の入山章栄先生、大分大学の加納拡和先生にお話を伺いました。

取材にご協力頂いた方

早稲田大学 大学院経営管理研究科/ビジネススクール 教授
入山 章栄(いりやま あきえ)

慶應義塾大学卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所でコンサルティング業務に従事後、2008 年 米ピッツバーグ大学経営大学院より Ph.D.(博士号)取得。
同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。 2013 年より早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール准教授。 2019 年より教授。専門は経営学。国際的な主要経営学術誌に論文を多数発表。メディアでも活発な情報発信を行っている。

大分大学の加納拡和准教授の画像

取材にご協力頂いた方

大分大学 経済学部 准教授
加納 拡和(かのう ひろかず)

1987年生まれ。大分県出身。2010年に立命館大学政策科学部を卒業後、2021年に早稲田大学より博士号(商学)を取得。アビームコンサルティング株式会社でコンサルティング業務に従事後、2018年に大分大学経済学部に講師として着任。2021年より准教授。専門は国際経営論、企業家論。International Business Reviewなどの国際学術誌に論文を発表している。

そもそも経営において立地にこだわる意味

早稲田大学教授の入山章栄氏、大分大学准教授の加納拡和氏、エモーショナルリンク合同会社代表の佐藤直人、執筆・編集担当の関口優のインタビュー画像

佐藤:そもそも会社経営において立地にこだわるべき意味としては、例えば青山や赤坂にオフィスを構えることで「ブランドのイメージアップ」「それなりの財務基盤があるという信頼性の獲得」になるから、ということなのでしょうか?

入山教授:企業によって様々だとは思いますが、こと「スタートアップ」にとってはブランドイメージや財務基盤などはあまり関係ないと思います。一番大きな理由は「情報」です。

佐藤:と言いますと?

入山教授:もともとスタートアップの立地に関する研究は、コロナ以前よりアメリカで沢山行われていました。これらの研究によれば、一般的にスタートアップは特定の狭いゾーンの中に密集・集積して立地している事が分かっています。しかも、この傾向は世界共通のようです。アメリカのスタートアップの著名な研究者として、ハーバード大学教授のポール・ゴンパース氏とジョシュ・ラーナー氏という方々がおられます。彼らによると、アメリカでは基本的に各スタートアップ・ベンチャーキャピタルの相互の平均距離は59マイル(約95km)ぐらいしかないそうです。アメリカの広い国土を考えると、95kmって非常に近いんですよね。

日本はアメリカより国土が狭いですから、スタートアップ同士や各ベンチャーキャピタルとの距離はもっと近いわけです。実際のところ、日本では東京都内に本社を設置するスタートアップが約7割を占めているのですが、都内の中でも特定の狭いゾーンに集積していることが今回我々の研究で分かりました。例えば、23区別で最もスタートアップの多い渋谷区でも満遍なくスタートアップが立地しているわけではなく、渋谷二丁目・三丁目、桜丘町、道玄坂一丁目などに集中しています。

佐藤:すると、先ほどスタートアップの立地選択のポイントは「情報」とのことでしたが、もしやスタートアップが特定の場所に集まる傾向にあるのは「相互に物理的に近い位置に立地することで、有力な情報を得やすいから」といったことなのでしょうか?

入山教授:ご想像の通りです。スタートアップが成功するために一番重要な要素は「いかに有益な情報を取れる環境にあるか」ということです。ライバル企業・お客さん・投資家など、あらゆるステークホルダーとの密なコミュニケーションを通じて有益な情報を得ることが、起業の成否を分けるといっても過言ではないでしょう。

加納先生:今、入山先生におっしゃっていただいた話は、学問的に言えば「知識のスピルオーバー(spillover:漏出効果、拡散効果)」または「知識の波及」というのですが、それが代表的な集積効果として知られています。ある先行研究によると、スピルオーバーは対面によるコミュニケーションに依存し、この効果が維持できる物理的距離は大体5マイル、8km〜9kmぐらいと言われています。それ以上、物理的距離が離れると、スピルオーバーの効果は減衰していくことが実証されています。

加えて、スタートアップが集まっているエリアには、投資家や金融機関などスタートアップを補完するアクターが集まって来ます。補完的ファクターが集まっていることで、更に新たなスタートアップも集まってくる。そして、スタートアップが集まれば集まるほどより多くの投資家・金融機関なども集まってくる。こうした好循環が発生したことによって、シリコンバレーや渋谷はスタートアップ集積地になっていったといえますね。

オンラインコミュニケーションでは、有益な情報は得られない

佐藤:今はZoomやTeamsなどでオンライン会議をやることが当たり前の時代ですから、これからは相互の情報交換において、物理的距離は関係なくなってきますかね?

入山教授:いや、ビジネス上で本当に有益とされる話は、オンラインでは展開されにくいと思うんですよ。私の経験上、直接会って話したり、食事したり、飲んだり、カンファレンスに集まったり、といった状況の時にこそ、有益な情報が絡んだ会話ができている気がします。ビジネス上で有益な情報というのは、例えば事業機会の話であるとか、人事でありがちな「◯◯はうちの会社では正直もうあまり必要ないんだよね(あいつクビにしたいんだよね)」とか、逆に「今CFOを探してるんだよね(適任者を探しているんだよね)」といった話題です。こうした情報のやりとりは、オンラインの会話ではほとんどないんです。

実際のところ、以前参加したスタートアップのモーニング研修では、ビジネスの各界トップの経営者が集まって顔を突き合わせ、食事をしながらビジネス上の重要な議論が展開されていました。このような一つの場所に会しての研修自体は、コロナ禍にあっても実は日本中の様々なところで開催されています。以前、こうした研修でたまに会うメンバーに会った際「もっと来た方がいいよ、面白いよ」と彼に言ったんですけど、「僕ちょっと地方なので、東京にはなかなか来れないんですよね」と言っていました。もし彼が、起業家や経営者の多くが集積している東京のごく狭いゾーン(特に渋谷や五反田など)にオフィスを立地させていれば、研修や会合に頻繁に参加することも難しくはなかったといえるでしょう。

スタートアップとして成功するための鍵は、そこで人に会わないと得られない情報を取得し、それを基に並行してビジネスを進めることだと言えますね。ネットがこれだけ盛んになった時代だからこそ、本当にビジネスで大事な情報というのは、逆にネット上には転がってませんし、オンラインコミュニケーションでも出てこないんですよ。

信頼関係は、味覚・嗅覚・触覚によって醸成される

佐藤:確かに、オンラインよりも対面で会話する方が、相手に信頼感を抱きやすいですよね。

入山教授:そう。対面の会話では正にその信頼関係が醸成されるからこそ、有益な情報が得られるんです。信頼関係の醸成は、スタートアップで成功するために欠かせません。なぜなら、スタートアップには資金が少ないため、いかに他者からのサポートを得られるかが勝負ポイントになってくるからです。

佐藤:なるほど。対面での会話において、より相手に信頼感を抱いてもらうためのコツなどありますか?

入山教授:私はその方面の専門家ではないのでコツというものは語れませんが、五感のうち「味覚、嗅覚、触覚」が介在しているコミュニケーションにおいて、人と人との信頼関係の醸成は促進されると私は考えています。なぜかというと、以前、京都大学の山極総長と対談した際「コミュニケーションの根本には味覚・嗅覚・触覚が関係している」というお話を伺ったことがあったからです。山極先生はオランウータンやゴリラの研究をされており、先生によるとオランウータンやゴリラは「味覚・嗅覚・触覚」を使って信頼関係を形成するそうです。オランウータンやゴリラは、互いにおしりの匂いを嗅いだりとか、毛作りとかを頻繁にするじゃないですか。あれはまさに味覚、嗅覚、触覚が関わっているんですよ。人間も同じ霊長類ですから、コミュニケーションにおける信頼関係作りでは、「味覚・嗅覚・触覚」が介在することが根本要素にあるのではないかと思います。

佐藤:人間同志のコミュニケーションで「味覚・嗅覚・触覚」が介在するのは、どういったシチュエーションなのでしょうか?

入山教授:信頼関係を醸成するためのコミュニケーションで私が意識していることは、環境の異なる様々な場所に出向き(触覚)、対面で会って飲んで食べて(味覚・嗅覚)、ということです。実際のところ、今ちょっと成功した小金持ちの起業家は、例えば軽井沢や鎌倉に別荘を持っていて、そこでなんとなくみんなで会っているようです。私もたまたま軽井沢に拠点があるのですが、近所に起業家から有名企業CEOまでいろんな人がいるんですよ。そこでは、誰かがガーデンパーティーなどを開き、各業界の情報交換や起業ネタなど様々な話が展開されています。軽井沢や鎌倉の他にも和歌山・南紀白浜・宮崎・十勝などなど、東京から場所を変えて対面で会って何かやる、といった事が積極的に行われています。このように、信頼関係を醸成し有益な情報を得るためには、実際に会って「味覚・嗅覚・触覚」を共に体感する機会にどんどん参加した方が良いですね。

加納先生:私も同じく、スタートアップ経営者はどんどん対面での会合に参加し、ステークホルダーとの信頼関係を築くことにリソースをかけた方が良いと考えています。創業間もないスタートアップでは実績が不足していたり、そもそも主軸となる製品やサービスが完成していないというケースも多いでしょう。そのため、そのような企業は経営者の「人となり」を売り込むしかありません。

実際、先行研究においてもベンチャーキャピタルは創業初期のスタートアップに投資する際には、起業家の熱量や覚悟、親近感も判断材料にしていることが示されています。このような要素はオンライン上のコミュニケーションでは中々伝わらないので、スタートアップの経営者は対面であらゆる感覚を介在させて自らの人間性を伝えることがステークホルダーとの信頼関係の醸成において重要だと思います。

佐藤:そう聞くと確かに、オンラインコミュニケーションでは有益な情報が得にくい、つまり信頼関係が醸成されにくい一番の要素は、やりとりできる情報が五感のうち「視覚・聴覚」だけだということが分かります。きっとZoomはもっと便利になるし、Zoom以外のサービスももっと出てくると思いますが、基本的にオンラインツールで「味覚・嗅覚・触覚」といった要素が介在できるようになるとは、現時点では想像しにくいですしね。

人が人を呼ぶ現象によって、スタートアップの集積地はできる

佐藤:今までのお話の流れで言うと、これからスタートアップを始める人がオフィスの立地条件として考慮すべき最低条件は、その場所のブランドや周辺環境は二の次として、まず起業家・経営者が多く集まっている場所かどうか、ということになるのでしょうか?

入山教授:おっしゃる通り。ちなみに、スタートアップ集積地になる前のシリコンバレーや渋谷に、そもそもなぜスタートアップが集まり始めたのか分かりますか?他にもいい場所があるかもしれないのに。もうご察しかもしれませんが、シリコンバレーや渋谷に行こうとするほとんどの起業家の目的は「その場所自体に行きたいから」ではなく「そこにいる人に会いに行きたいから」です。例えば、ある場所に非常に魅力的な起業家・経営者がいたとすると、その人に会いたくてその場所に津々浦々から多種多様な人が集まります。すると今度は、そこに集まった多様で面白い人達に会いたいという目的で、更にそこにいろんなバックグラウンドや特徴を持った人が集まってきます。つまり、スタートアップの集積地というのは、人が人を呼び、雪だるま式に増えていくことで形成されていくのです。

私の知人に、WiLというVCの代表をやっている伊佐山さんという方がいます。WiLの拠点はシリコンバレーのサンドヒルロード横なのですが、その伊佐山さんに「仕事でどうにも分からないことあった時ってどうしてるの?」って聞いたら、彼は「近所のスタバに行く」って言っていました。シリコンバレーのサンドヒルロード周辺には、セコイア、クライナー、タイガーなどの超一流VCが乱立していて、それらから出資を受けているスタートアップも集中的に立地しています。こうしたメンバーがサンドヒルロード近辺のスタバによく来ており、大物起業家も普通に来ている店舗もあるんですよ。伊佐山さんが言うには「スタバに行ったら知り合いが大体いるから、そこで『今ちょっと僕こういうことで悩んでるんだよね』と話をすると、すぐに意見をもらえてすぐに解決することも多い」らしいです。こういうビジネス観、つまり人を求めてある場所へ行く、という観点がスタートアップ界隈にはあるので、その連鎖によって集積地というものが誕生するのです。

私は常々「東京の一極集中は基本的にそんなに簡単に止まりませんよ」と言っています。というのも、日本で最も多種多様な人材がいるのは東京ですから「◯◯に会いたい」という目的の人は、大抵のケースにおいて東京に来ることになるからです。このメカニズムから考えても、日本でスタートアップを始めるならば、オフィスの立地条件としては東京を選ぶのが良いということになりますね。

五感を刺激するインフラが整っている場所が、集積地になりやすい

佐藤:つまり、スタートアップ集積地の最大の特徴は、人が人を呼ぶメカニズムが形成され、その延長線上に今の姿があるということですね。ちなみに、その他の付加的な要素として、現在の集積地に共通して見られる点はありますか?

入山教授:その場所に、五感を刺激する基盤のインフラが整っていることですね。

佐藤:と言いますと?

入山教授:人が集まる時には、楽しく集まれた方がいいですよね。それに先ほど申し上げた通り、五感が介在するコミュニケーションによって信頼関係が醸成されやすいからです。まだ研究段階の話ではありますが、多分あった方が良いのはクラブやバー、パブ、スナックといった店舗でしょう。六本木には泡バーという施設があり、そこに各企業のトップが集まって飲んだりしたりしています。そういう意味では東京が圧倒的に充実しているんですが、最近では地方にも目が向けられています。例えば最近では十勝に面白い起業家がいたりします。彼ら彼女らのコミュニケーションの手段は例えばサウナです。サウナも汗を流し五感を刺激する施設であるといえますから、集まってコミュニケーションを取るための場所として注目されてきています。

加納先生:都市経済学に関する著名な研究者のリチャード・フロリダも起業家などのクリエイティブな人材を集めるためには文化的アメニティ(amenity:快適さ、心地良さ)が重要だと論じていますね。つまり、入山先生がおっしゃられたことと同じく、そのような人材は非常に流動性が高いので、彼らを一か所に集めるには魅力的で洗練された飲食店やバーなどが必要だと述べています。

今後、新たなスタートアップ集積地としての候補は?

佐藤:その他にも五感を刺激する場所といえば、丸の内などもグルメシティとして良くメディアで取り上げられていますよね。丸の内はいかがでしょうか?

入山教授:そうですね。人を集める要素として食べ物はとても重要ですし、実は丸の内って今世界で多分ナンバー1か2のグルメシティだと思うんですよ。私は三菱地所やTMIP(大手町・丸の内・有楽町エリアのイノベーション創出のプラットフォーム)といった組織のアドバイザーもやっていますが、「丸の内を完全にグルメシティに旗色を変えるべきだ」と常々言っています。他にはスポーツも五感を刺激するものなので、人が集まる場所には大切な要素だと思っています。だから、丸の内に両国国技館を持って来てはどうかと。「そこで相撲やるぞ」って言って。

ただ一方で、スタートアップの人達に限っていえばお金がないから、高級料理店でグルメ三昧したり相撲観戦などをするのは、必ずしも現実的ではない方もいますよね。その点を考慮すると、やっぱりなんだかんだ言ってスタートアップが集まりやすい地域の一つは渋谷ですね。ちなみに、日本では渋谷に次いで五反田にスタートアップが集まり始めてきていますが、これは渋谷の再開発が進んで地価が上がってきたからなんですよ。

加納先生:これは学術的にはジェントリフィケーションと言って、元々地価が安かった土地が再開発や文化的活動などによって活性化する現象です。ジェントリフィケーションにはそのエリアの治安向上など良い側面もあるのですが、地価の高騰を招くこともあります。起業家や芸術家などのクリエイティブな職種の方々の多くはあまり金銭的に余裕がないので、比較的地価の安い地域に活動拠点を置きます。しかし、その地区の再開発が進んで地価が上昇すると彼らは出ていってしまい、富裕層しか住めないような場所になってしまうんです。

入山教授:しかも、五反田がスタートアップ集積地になった要因としては「地価の安さ」に加えて「渋谷からの距離の近さ」もあります。渋谷にはトレンドがあり魅力的な人も多く、そして日本で今一番スタートアップが密集しているのが渋谷です。だから、みんな渋谷に行きたい。だけど、渋谷はちょっと高くて手が出ないから、渋谷のそばに行く。そんな流れでいくつかのスタートアップが五反田に集まり、集積地へと成長していったんですよ。

佐藤:なるほど。ちなみに五反田以外にも、今のトレンドでスタートアップ集積地になるであろう候補としては、どんな場所が考えられますか?

加納先生:地価が安いという意味では、秋葉原エリアが挙げられます。秋葉原にはDMMが運営しているコワーキングスペース(法人登記可能)があり、そこに立地するスタートアップが増えています。今後ここを中心として集積が進展するかもしれません。その他、最近では大学周辺、特に東大がある本郷周辺もスタートアップが増えてきていますよ。

佐藤:それは、やはり大学VCからの距離の近さが関係しているのでしょうか?

入山教授:その通りですね。本郷には東大エッジキャピタルパートナーズ、ディープコア(ソフトバンク系)といった巨大VCがあり、彼らが東大のディープテック起業家たちに積極的に投資を行っているんです。大学系VCでは東大がダントツですから、本郷バレーにはもの凄く期待していますね。早稲田もそれに続かなくては、と思っています。

まとめ

今回は、早稲田大学の入山章栄先生、大分大学の加納拡和先生にお話を伺いました。

スタートアップにとって立地にこだわる最大の意味は、「有益な情報を得ること」につきます。だからこそ、スタートアップで成功するための立地条件としては、まずそこがスタートアップ集積地であることが重要ポイントだと言えるでしょう。

そう聞くと、遠隔コミュニケーションツールが発達してきた昨今では、立地の意味は以前ほど重要ではないと感じるかもしれません。しかし「有益な情報の交換」というのは、信頼関係が生じるコミュニケーションにおいてのみ発生します。そして、信頼関係の構築は、現代のオンライン技術では決してできない「味覚・嗅覚・触覚」を介在したコミュニケーションでなければ難しいものです。

他者からの支援なくして、資金の少ないスタートアップが成功することはできません。だからこそ、スタートアップ経営者にとって特に注力すべきは、他者との信頼関係の構築だと言えます。いざという時に頼れるステークホルダーをより増やしていくために、立地も含めた経営戦略を、改めて見つめ直してみるのも良いかもしれません。

(対談/佐藤 直人、執筆・編集/佐藤 優)