専修大学 経済学部
小川健 准教授
暗号資産は投機だけではない?投資目線だけでは気づかない暗号資産の可能性

暗号資産は一攫千金ができる金融商品と紹介されることも多く、投資対象としては非常に魅力的に映ります。

しかしその一方で、暗号資産についてよく知らないまま投資で大損をしたり、詐欺被害に遭うといった事例も後を絶ちません。

そこで今回は、暗号資産への投資で大きな失敗をしないためにも、事前に知っておくべきことについて専修大学の小川先生にインタビューしました!

取材にご協力頂いた方

専修大学経済学部(国際経済)准教授
小川健(おがわ たけし)

理学部(旧数学科)から大学院より経済学に移る。2011(平成23)年3月博士(経済学、名古屋大学)。
現在の担当:国際経済論、資源・エネルギー論、数学補充科目、貿易論など。
専門:近経貿易理論、水産物貿易(理論)、暗号資産教育、経済学教育におけるICTの活用など。
貿易論に限らずマルチに活動。2015(平成27)年4月より現在の大学に移る。執筆段階では准教授。
教育の工夫の一環として国際金融の講義に暗号資産教育や外貨建て保険等を取り入れてきた。


エモーショナルリンク合同会社取材担当(以下EL):早速、暗号資産についてのお話を伺いたいのですが、正直言って暗号資産には危険なイメージを持っている方も多いと思います。実際のところ、暗号資産が危ないというのは正しい認識なのでしょうか?

OGAWA先生:結論から言えば、正しい面もありますし間違っている面もあります。

暗号資産は価格変動が激しいため、投資対象として見ると比較的リスクが高い金融商品です。なので必然的に投機(ギャンブル)にもなりやすく、資産を失ってしまう方が多いことも事実です。暗号資産に見せかけた詐欺があることも、マイナスイメージの大きな要因でしょうね。

ですが、技術的に見れば暗号資産は様々な革新を起こしています。暗号資産を活用すれば国境を超えた取引が容易になりますし、ブロックチェーン技術などは徐々に暗号資産の範囲を超えた活用の仕方も始まっています。

暗号資産に関する技術的な話は投資には無縁だ、と感じる方も多いかもしれませんが、それぞれの暗号資産がどういった理念・仕組みなのかを理解することはリスク回避にもつながります。なので、皆さんには投資という1つの側面だけでなく、暗号資産の持つ大きな可能性も知っていただきたいな、と思います。

暗号資産とは何か?

EL:ありがとうございます。それではまず暗号資産がどんなものなのか、全体像からお聞きしたいです。

OGAWA先生:最初に大前提から入りますが、暗号資産とは何か、と聞かれたらどのように答えますか?

EL:難しいですね。本当にそのまま「暗号を使った資産」としか言えなさそうです。

OGAWA先生:実は、「暗号を使った資産」というのはそこまで的外れな答えではないんですよ。無難な答えとしては「暗号技術を利用した資産のようなもの」でしょうか。もっと正確に突き詰めていくと法的な答えと技術的な答えにも違いがあって、法的な答えに関しては国によって定義が異なりますが、日本では以下のように定められています。

不特定の者に対して、代金の支払い等に使用でき、かつ、法定通貨(日本円や米国ドル等)と相互に交換できる電子的に記録され、移転できる法定通貨または法定通貨建ての資産(プリペイドカード等)ではない
参照:暗号資産(仮想通貨)とは何ですか? : 日本銀行 Bank of Japan

意訳すると、「1.誰でも支払いに使えて、円やドルなどの外貨と交換でき」「2.ネットでやり取りが可能で」「3.円やドルなどの外貨、円建ての資産などは含まない」この3点を満たす財産的価値が日本における暗号資産ということです。

例えば、昔からある暗号資産のXRP(旧称:リップル)は、1~3の条件を全て満たします。1と2はわかりやすいと思いますが、3に関してもXRPの価値は日々変動していて、交換業者でも毎日異なる価格で取引されているので、法定通貨・法定通貨建ての資産ともに当てはまりません。そのため、XRPは法的に暗号資産に含まれる、といえるわけです。

暗号資産の分類について

EL:なるほど。すると、一般には大雑把に暗号資産として扱われていても、詳しく見ると違う場合もあるのでしょうか?

OGAWA先生:そうですね。暗号資産と一口に言っても分類は多岐に渡るので、初めて触れる方にはわかりにくいと思います。ここで簡単に暗号資産の分類について説明しておきましょう。

まず暗号資産は通貨なのか否か、という部分ですが、日本ではエルサルバドルでビットコインが法定通貨となった時に外貨として扱うか、暗号資産とするかという選択が迫られたことがあります。これについては国会答弁の際、日本の法律でいう外貨の定義を満たしていないとして、外貨ではなく暗号資産だとされました。

参考:日本政府、ビットコインを外貨として認めない見解示す エルサルバドルの法定通貨化受け – 月刊暗号資産online

他に、明確に暗号資産に含まれないものとしては、非代替性トークンの「NFT」が挙げられます。また、皆さんも日常的に使われているSuicaや楽天Edy、waonといった電子マネーは日本円建ての資産なので、暗号資産には含まれません。

EL:暗号資産に関連した話題だと、ステーブルコインについてもよく取り上げられますが、ステーブルコインは暗号資産と考えて良いのでしょうか?

OGAWA先生:ステーブルコインは「何らかの形で価値を安定させた暗号資産」で、下の表でまとめたように価値の保存方法は様々です。

タイプ主要コイン価値保存方法
法定通貨担保型テザー、USDコイン、JPYCなどUS$や日本円などと価値を連動させる
コモディティ(商品)担保型テザー・ゴールドなど金などと価値を連動させる
暗号資産(仮想通貨)担保型ダイ(DAI)などビットコインなど主な暗号資産と価値を連動させる
無担保型昔のテラUSDなどプログラムによって価値を保つ

参考:ステーブルコインとは?初心者向けに解説【2022年版】-TheFinance

例えば法定通貨担保型の1つであるGMO Japanese Yenなら、発行分の裏付け資産を管理団体が保有し、いつでも円など指定通貨に固定レートで交換できるようになっています。無担保型であれば価格が上がりそうになったら売り注文を出して価格を下げ、下がりそうになったら買い注文を出して価格を上げるプログラムを組んでおきます。すると、裏付け資産がなくても価値を一見安定させることができる、という仕組みです。

こうした側面を見ると、原理的には「価値が保たれているなら法定通貨である日本円建ての資産にあたるため、暗号資産にはならない」となります。ただ、後ほど詳しくお話ししようと思いますが、ステーブルコインの価値保存方法にはそれぞれ問題点があることが知られています。そのため、暗号資産に含めるかどうかは専門家の間でも議論が分かれていて、日本の法律でいうと「無担保型」は法的に暗号資産として扱われ、「担保型」は交換業者への規制が入っている状況です。

参考:ステーブルコインを規制する初めての法律が成立 | 2022年 | 木内登英のGlobal Economy & Policy Insight | 野村総合研究所(NRI)

こういった事情もあって、ステーブルコインの中でも、裏付け資産を外部に委託する形式を取ることで価値の安定を盤石にしている「民間デジタル通貨」(※)も生まれています。例えば、日本円と連動するDCJPYや、旧Facebook(現:Meta)が中心となって組織した「旧・リブラ協会」の「旧リブラ(Libra)」などは民間デジタル通貨として構想されていました。一般的に民間デジタル通貨はステーブルコインとは区別され、価値の安定が保たれていることから法的な暗号資産にも通常含まれません。

参考:DCJPYとは?概要から参加企業までやさしく解説【2022年8月版】-TheFinance

同じ理由で、中央銀行デジタル通貨(CBCD)も中央銀行が発行することから価値の裏付けがあり、棄損の心配がないとして暗号資産には含まれない位置付けが一般的(※)です。例えば、デジタル人民元やサンドダラーなどがそうですね。

種別分類主要例
ステーブルコイン意見が分かれるテザー、USDコイン、JPYCなど
民間デジタル通貨(※1)一般には暗号資産ではないDCJPYなど
中央銀行デジタル通貨(CBCD)暗号資産ではないデジタル人民元、サンドダラーなど
※1 通貨は「法的な強制通用力を持つ貨幣」などが語源とされている関係で、「民間デジタル通貨」という言い方を嫌う見方もあります。

価値が安定しているかどうかは、投資的な目線から暗号資産を見る際にも重要になります。なので、こうした分類は知っておいて損はありません。

EL:確かに、通貨名などの語感からなんとなく暗号資産だろう、として見てしまっていた部分がありました。実際にはステーブルコインであっても、暗号資産には分類されない場合があるのですね。

暗号資産の根幹を成す「ブロックチェーン」技術とは?

OGAWA先生:次に、暗号資産とは何か、の技術的な答えについてもお話ししておきます。

技術的な意味においては、暗号資産は「分散型台帳技術(DLT)」を利用した「記録のやり取り」の結果として「資産的価値を持ったもの」、とされます。今回は分散型台帳技術についてブロックチェーン技術よりもやや広い意味合いで使います(※)が、実際、ビットコインは2009年に登場してからの全てのやり取りが記録・公開されているので、どのIDにどれだけの価値が残っているのかが誰でもわかるようになっています。但しそのIDが誰のものかは通常分かりませんので、その意味での匿名性、つまり疑似匿名性は確保されています。また、「1点ものとしての区別はされない」点が暗号資産の特性といえますね。

EL:今お話に出たブロックチェーン技術は、暗号資産について調べるとよく目にする言葉ですね。暗号資産についての核心ともいえる部分かと思いますので、詳しく教えていただけますか?

OGAWA先生:ブロックチェーン技術については専門的な説明をすると非常に複雑なので、まずは足掛かりとして「旧来技術に新たな技術を加え、改ざんを困難にした取引履歴の連なり」と理解してください。

旧来の技術というのは主に、「公開鍵暗号方式」と「P2P(Peer to Peer)技術」を指します。これらの技術に、皆で監視ができるような何らかの技術を新しく加えることで「改ざんを困難にした取引履歴の連なり」、がブロックチェーン技術ということです。

1つ目の「公開鍵暗号方式」は、メールやSNSなどでも使われています。例えば、秘匿性が高い情報を誰かに送る時には情報にパスワードをかけますが、相手に見てもらうにはそのパスワードを送る必要がありますよね。すると、相手にパスワードを送る過程で盗まれる・改ざんされるといった危険性が出てくるわけです。公開鍵暗号方式はこれらの問題を解決する手法です。

2つ目の「P2P(Peer to Peer)技術」は、データを分散して共有・管理する手段の1つです。分散させることは非常に重要で、通常、私たちがデータをやり取りしようと思うと、特定のサイトなどにアップされたものをダウンロードすることが一般的ですよね。ただ、この方法だと大元のデータが破損してしまったり、サーバーダウンなどで接続ができなくなるとダウンロードが不可能になります。

しかし、「P2P技術」を使えばデータを持っている1人1人のPCから、少しずつデータをコピーしてくることができます。データを配信する大元のコンピュータやサイトが必要なくなるので、先ほど挙げたようなトラブルに強くなるんです。

EL:なるほど。こうして詳細をお聞きすると、暗号資産で使われている技術も身近に感じられます。

OGAWA先生:ただし、今お話しした「公開鍵暗号方式」と「P2P技術」だけでは、暗号資産で求められた「価値を送る」ことにはまだ十分でない部分があるんですね。そこで、最初の暗号資産であるビットコインの開発にあたって考案されたのが「Proof of Work(仕事量による証明)」という方法です。

暗号資産には法定通貨の円のように紙幣やコインといった形がなく、どこかの国が価値を保証しているわけでもありません。だからこそ、ただのデータである暗号資産の現在の価値をどうやって保証するかが重要になります。

そこでビットコインのオリジナル・ブロックチェーンでは、初めから全ての取引を記録して検証可能にすることで、暗号資産の現在の価値がいくらなのかを明らかにしました。この記録の束に新たな取引の記録を安全に繋ぐ方法として「Proof of Work」という方法が考案されました。

そもそも、ブロックチェーンの言葉の由来は、「ある時期における取引の塊(ブロック)を鎖(チェーン)のようにつなぐ」ことにあります。ネットワーク内で発生した取引の記録を、1つ前の内容とともに「ブロック」に格納する。そして、そのブロックを時系列に沿ってつなげていき、記録は誰でも閲覧できる状態で公開しておく。そうすれば、過去に行われた取引の全てが把握でき、透明性が確保されます。しかし、情報の公開だけでは改ざんのリスクが高くなってしまうので、「Proof of Work」はこれまでの記録に新たな記録をつなぐ時に権限を制限し、原理的には誰でも記録をつなげる一方で、改ざんは困難にしたのです。

EL:ブロック同士をつなぐ時の権限を制限したというのは、特定の人にのみアクセスを許すといったことなのでしょうか?

OGAWA先生:いえ、ブロックチェーン技術ではむしろ逆です。特にビットコインのオリジナル・ブロックチェーンだと、接続作業に参加する人を意図的に絞ることがないような仕組みが取られているのです。

もともと、オリジナル・ブロックチェーンは中央銀行による管理通貨制度を問題視していたと指摘されています。これまで通貨の取引は銀行など一部の組織だけが承認する形式を取ってきましたが、その組織が中央集権的に物事を決めることになる問題点も内包しています。そして、最終的にはその決定に逆らえなくなるほど、特定の組織が権力を持つことになってしまうんですね。

具体的な事例を挙げますが、1970年代には各国の中央銀行が特に裏付けがないにも関わらず、一元的に通貨量を管理することが本格化しました。ですが、こういった管理には政策運営を誤れば通貨価値が大幅に下がり、通貨・貨幣が貯蔵や尺度といった本来の役割を果たせなくなるリスクも伴います。例えば2008年のジンバブエ、2018年のベネズエラでのハイパーインフレがそうで、日本でも2012年1月から1015年1月までのたった3年間で、実行為替レートで30%以上も対外的な価値を失いました。最近でも、2021年9月頃には1ドル110円でしたが、2022年9月には1ドル140円まで値下がりしていて、単純に考えても20%以上も価値が下落したということになります。こういった価値の毀損は様々な要因があるにせよ、中央銀行や政府の独断による影響は無視できません。

EL:なるほど。ブロックチェーンでは仕組みとして中央集権的な体制を排除したのですね。

OGAWA先生:全てのブロックチェーンではありませんが、ビットコインのオリジナル・ブロックチェーンについてはそういうことです。しかし、原理的には誰でもブロックの接続作業に参加できるからこそ、悪意のある存在が介入してきても安定して運営できる仕組みが必要になります。

このことを専門用語では「ビザンチン将軍問題」というのですが、問題の概略を簡略化していうと、全軍で一斉攻撃しなければ敵を倒せない場面で、組織崩壊を目論んで一部にのみ偽の命令を送ろうとしている裏切者がいます。そこで、あえて伝令に時間がかかる仕組みを設けて裏切り行為を見抜けるようにします。つまり、伝令を1種類送るためには解読に1日かかる暗号を解かなければいけない、とすれば「突撃せよ」「待機せよ」の2種類の伝令を送るには2日かかりますよね。一部の部隊のみで突撃すれば全滅してしまう場面だとしても、本来1日で届くはずの伝令に時間がかかり過ぎていることから、周囲は「裏切りがあったのかもしれない」と警戒できるわけです。

面白い問題なのでより詳細な部分に興味があれば調べてみていただきたいのですが、「Proof of Work」はこうした発想で改ざんを防いでいます。ビットコインなら、ブロックをつなぐ際にはその時代の最先端のコンピュータでも解くのに平均10分かかる難易度の問題が用意されています。そして、問題の答えを1番速く見つけた人が前のブロックの情報を利用して次のブロックへと接続し、報酬を得ることになっています。

EL:ここでいう報酬というのは、ビットコインについて調べるとよく出てくるマイニング報酬のことでしょうか?

OGAWA先生:イメージとしてはその通りです。マイニングというのは、金鉱を掘るような作業に例えて名づけられました。

ブロックチェーンで使われるのはデータの改ざんを防ぐための問題なので、あっという間に解けてしまっては意味がありません。最先端のコンピュータで平均10分かかる問題を出すには、解くための手掛かりがなく、総当たりで答えを探すような内容にする必要があります。この総当たり作業が、金鉱を掘り当てるようだとされたのですね。

もし途中で改ざんが行われたとしても、ブロックチェーン技術においては最も長いチェーンが正しいとされます。チェーンは日々長くなっているので、より長いチェーンにするためにブロックをつなごうとすれば、世界中の計算処理でつながれてきた正統なチェーンを超える量の計算をしなければいけません。それなら、改ざんするよりも承認作業をして報酬を得た方が手っ取り早いですよね。

このように、改ざんを100%防ぐのではなく、改ざんする意欲を削ぐ方からアプローチしているのがブロックチェーン技術ならではの特性といえる部分です。まとめると、「公開鍵暗号方式」と「P2P技術」に「Proof of Work」、つまり正当なブロック接続と皆で監視・確認できる方法を加えて、ブロックチェーン技術が成立したわけです。

ブロックチェーンへの攻撃と改良

EL:逆転の発想ですね。改ざんを100%防ぐことが不可能だとしても、元を絶つ方を考えたと。

OGAWA先生:それでも、攻撃が完全になかったわけではないんです。

これまでオリジナル・ブロックチェーンにおいて技術的な不正が起きたことはないのですが、比較的規模の小さなものだと、改ざんは困難ではあっても「100%不可能ではない」ことが知られています。「Proof of Work」型だと、2018年にモナコインやビットコインゴールドのブロックチェーンへの「51%攻撃」(特定のマイナーが計算処理能力の51%以上を支配することで、本来不正な取引を承認させてしまうこと)などが成功し、取引記録の「巻き戻し」が発生しました。2019年にはイーサリアム・クラシックも攻撃を受けています。

参考:「モナコイン」攻撃のインパクトは 「PoWだけでは限界があるかもしれない」:深刻な問題ではない? – ITmedia ビジネスオンライン

こうした経緯もあって、オリジナル・ブロックチェーンの成立後、ブロックチェーン技術も改良が加えられ、広義の意味での分散型台帳技術も発展していきました。「Proof of Work」は数多くのブロックチェーンで取り入れられていますが、中には狭義のブロックチェーンには当てはまらなくても、広義の分散型台帳技術といえる方法を考案・採用しているケースもあります。「Proof of Work」の改良方法、ブロック接続権限割当の代替案としては、主なものだけでも以下のようなものが挙げられます。

  • PoS(Proof of Stake):保有量が多い人に接続権限を優先的に渡す
  • DPoS(Delegated Proof of Stake):保有量に応じた取引承認の投票権を割り振る
  • PoI(Proof of Importance):直近の取引量を重視して接続権限を優先的に割り振る
  • PBFT(Practical Byzantine Fault Tolerance):外部接触をする担当と承認担当を分けて相互監視をする

2018年にCoincheckによって起きたNEM流出事件では「PoI」の仕組みを使っていたので、皆さんも聞いたことがあるかもしれませんね。ただしNEMの場合、原因はブロックチェーンへの攻撃ではなく業者のミスであり、類似する例としてはDAO事件などがあります。現状としては、「Proof of Work」にも改良案は提案されていますが、基本的には他の認証方法への移行などが検討されている状況です。実際に2022年9月、有名なブロックチェーンの1つであるイーサリアム・ブロックチェーンではProof of WorkからProof of Stakeへの変更がなされました。

参考:仮想通貨業界を震撼させた「The DAO事件」とは? | 幻冬舎ゴールドオンライン

EL:技術的な問題点が見つかっても、その問題点を改善するための方法が次々と生まれているのですね。

ブロックチェーン技術による現実世界の発展

OGAWA先生:そうです。大切なのは、今お話ししたようなブロックチェーンへの攻撃や交換業者の失態、大暴落もあって暗号資産はもう終わったという見方もありますが、それは大きな間違いだということです。

ビットコインが生まれてから現在まで暗号資産、そしてブロックチェーンを含めて分散型台帳技術は進化し続けています。暗号資産の数は今や5,000をはるかに超えますし、オリジナル・ブロックチェーン登場以降、数多くのブロックチェーンが開発されました。特にイーサリアム・ブロックチェーンには新たに「プラットフォーム」と「スマートコントラクト」という2つの機能が実装され、その後に登場した多くのブロックチェーンに影響を与えています。

「プラットフォーム」というのは、ブロックチェーンを銀行間送金やゲームアプリ、教育機関や公共機関など、暗号資産以外のものにも記録場所として割り当てられる仕組みです。株式やFXにも応用できますから、投資家の方にとっても無縁ではありません。非代替性トークンであるNFTも、イーサリアム・ブロックチェーンに情報を書き込むことで事実上のシリアルナンバーをつけ、唯一無二の1点ものとしてやり取りができるようになっています。

「スマートコントラクト」は契約の自動執行をできるようにする仕組みで、イメージとしてはSuicaで自販機のジュースを買う場合が近いでしょう。ジュースを買えばSuicaからは自動的に料金分が引き落とされ、購入記録がSuicaに残りますよね。ブロックチェーンにおける「スマートコントラスト」も仕組みとしては近いものがあって、特定のコンテンツに相応の対価となる暗号資産が揃った時のみ、自動的に両者を交換します。しかも、このコンテンツは返品不可でブロックチェーン上に記録されるので、通販などでよくある商品が届かない、商品を送ったのに代金が届かない、といったトラブルを防げます。しかもこの特性を応用すれば、アナログなアート作品を販売する時に移転販売収入の一部を作者にも渡るよう自動設計を組んでおけるので、作品の持ち主が変わる過程でも作者に収入が入るようにできます。

このように、いろいろな改良方法が提案される中で技術が発展し、ブロックチェーンを含んだ分散型台帳技術は暗号資産に留まらず現実世界で活用される事例も多くなってきています。

EL:大変興味深いお話です。現実世界、つまり私たちの生活の中にも暗号資産技術が応用されているとなれば、そういった技術面への投資という見方もできそうですね。

投資対象としての暗号資産の見方

OGAWA先生:そうなんです。投資はあくまで自己責任で行うもの、と決まり文句は添えておきますが、ブロックチェーンを含めた分散型台帳技術は暗号資産の範囲を越えて利用され始めています。暗号資産に関する未来への可能性を応援したい人はその仕組みを学んだ上で、応援の範囲で投資を始めてみるのも手かもしれません。

それに、どの暗号資産に投資するかを考える時に、暗号資産の将来性や信頼性は重要ですよね。例えばエルサルバドルがビットコインを法定通貨に加えた大きな理由の1つに、国際送金による送金手数料が膨大だった点が挙げられます。エルサルバドルの取り組みは一般には広がらず失敗と評する人も少なくありませんが、その原因については一般国民・在住者への説明・教育周知が不十分だったからという面があり、仕組みを知る重要性を示しているとも言えます。他にもビットコインではなく米国ドルと連動させたステーブルコインであるテザーを法定通貨に加えたら結果も変わっていたかもしれません。エルサルバドルでは元々米国ドルが結構流通していた一方で、携帯電話の普及率は高いのに現金でやり取りせざるをえなかった国でしたから。

日本でも銀行間をまたいだ送金には手数料が取られますが、本来は全ての銀行、もっと言えばあらゆる金融を同じネットワークにつないでしまえば高額な手数料にならず、より早く、そしてミスも少なく済むはずです。これがリップルネットワークの構想なんですね。

参考:イーサリアムの特徴とは?仕組みや歴史を解説(Ethereum) | 【BITPoint】ビットポイント【BITPoint】暗号資産(仮想通貨)ビットコイン取引ならビットポイント

参考:リップルとは – 仮想通貨?儲かるのか? by BK

参考:ビットコインの法定通貨化における意義と問題点

また、カルダノADAという暗号資産はブロックチェーンの活用によって人件費を削減し、公正なカジノを実現することを目的に作られました。日本でいうと公営ギャンブルである競馬の払い戻し率は70~80%、宝くじは50%未満なので、地方財政などの補填にも使われるということはその分、掛けた額から払い戻されない部分があるわけです。それを思うと掛けた額が平均的に返ってくる公正な賭けが実現する重要性は高いといえるでしょう。

参考:仮想通貨エイダコイン(ADA/カルダノ)の特徴や今後の将来性を徹底解説 | KUSHIM HACK|あなたの選択肢をもっと自由にするメディア

EL:なるほど。投資的な目線で見るとあまり気にしない人も多いですが、株式やFXでも政治的な動向など投資対象の置かれた状況を調べることは大切ですし、価格だけを見て投資することには高いリスクが伴います。同じように暗号資産の背景を知ることも大切なのですね。

OGAWA先生:はい。暗号資産は基本的に株式やFXに比べて価格変動が大きいので、投資を行うならなおさら予備知識をつけてそのリスクをカバーしていかなければいけません。

暗号資産の代表格であるビットコインを例に取ると、2017年の1年間だけでビットコインの価値は約20倍になりました。しかし、その後半年間で価値は1/5にまで落ち込み、近年でも半年間で5倍になった価値が8ヶ月で1/3になっています。こういった特性を考慮すると、値上がりを期待して長期保有するガチホ(ガチホールド)を行う際には、暗号資産の背景にある理念、そして設計を見ておくことが非常に大切です。

例えば、ビットコインはもともと理想的な未来のお金として期待されていましたが、現実にはその幻想はすでに崩れています。ビットコインを法定通貨としたエルサルバドルも、一般庶民がビットコインを日常的に使う形にはなっていません。しかし一方で、ビットコインで開発が続いてきたライトニング技術によって、手数料を大幅に抑えながら世界共通のキャッシュレス決済方法が登場したとはいえます。また、「草コイン」と呼ばれるマイナーな暗号資産同士の交換にはビットコインを使うので、存在価値としてはまだまだ大きいものがあります。他の有名どころでいえば、イーサリアムは自律的に動くアプリケーションの開発や実行のためのお金という側面があり、日常のためのお金という位置付けではありません。XRP(旧称:リップル)に関しても「価値のインターネット」と言われる、先ほどお話ししたようなリップルネットワークを円滑にするための暗号資産です。こういった背景、現在の立ち位置を理解することで、投資対象としての暗号資産の安定性もある程度測れるようになります。

EL:安定性を測るという意味での、具体的な例なども教えていただけますか?

OGAWA先生:近年話題になったものだと、ステーブルコインがわかりやすいですね。

ステーブルコインは基本的に法定通貨に価値を連動させているものが多いです。ただ、TITANやテラUSDのようにプログラムで価値を安定させる無担保型のステーブルコインは、1つのバグで価値が暴落する場合があるので私はおすすめしません。先にお話しした、裏付け資産を持っておく方式のステーブルコインについても、裏付け資産の使い込みなどが起これば価値が保てなくなるリスクがあります。テザーでは昔それが問題になり、一時価値が崩れたことがあります。民間デジタル通貨をステーブルコインから分けているのは、こうした使い込みを防ぐ意味がある訳です。

参考:ステーブルコイン『テラUSD』が暴落 | 2022年 | 木内登英のGlobal Economy & Policy Insight | 野村総合研究所(NRI)

そもそも、ステーブルコインは本来他の暗号資産を購入するための一時的な保有手段であって、投資対象となるべきものではないんです。将来的には、ステーブルコインは先進国のルールに合わせたものと、テザーのように途上国でのデジタル・ドルの代わりになるものに分かれていくでしょう。大事なのは、両者の違いを理解した上で扱うということです。

また、「草コイン」と呼ばれる暗号資産は現状での価格が低いので将来の値上がりを期待して買いたくなるかもしれません。しかし、取引が充分に整備されているとは言い難く、日本語でのサービスが期待できないところもあるので、初心者のうちから手を出すことは控えるべきです。

EL:やはり、投資対象として見た時にはビットコインのように主要な暗号資産の方が安心なのでしょうか?

OGAWA先生:投資リスクでいうと、主要な暗号資産だから特別安心とも言い切れません。

ビットコインは当初、各中央銀行の金融政策から独立した位置付けを期待されていましたが、近年ではリスクオン資産として金融政策の影響を受けた動きをしやすいとされています。そして、ビットコインが暗号資産におけるハブ貨幣となっている関係から、ビットコインの価格変動に主要暗号資産の多くが連動する特性があるのです。

そのため、投資リスクを減らすには暗号資産だけに集中投資するのではなく、あくまで資産保有の手段の1つとして捉えることが重要です。オンラインで置いておくなら損切りの設定も重要な意味を持ちますし、交換業者がサイバー攻撃を受ける危険性も考えればネットから切り離して保管する「コールド・ウォレット」の形で暗号資産を保存することも欠かせません。日常的に利用しない分に関しては、ネットから切り離して保管した方が安全ですからね。リスクという面でいえば、「コールド・ウォレット」という言葉の意味も知らないうちから、適当に暗号資産を購入して交換業者に置いておき、値上がりを待つ・・・といった行為はリスクが直撃する可能性が高いと思います。

EL:具体的な注意点や対策も教えていただき、大変参考になります。最後に、これから暗号資産に触れる方に向けてメッセージをお願いします。

OGAWA先生:暗号資産は単なる投機、ギャンブルの対象ではありません。

皆さんにとって、かつてゲームの中のものだったオンラインのお金は、暗号資産として数多くの進化を遂げています。オンラインの中でしか使えなかったバーチャルなお金の多くは、現実世界への換金ができるようになりました。また、「スマートコントラクト」など暗号資産から生まれた技術によって、商品未着・代金未納の双方を防げるようになっています。さらに、暗号資産の存在は国境を超えた取引の活性化にも寄与している他、主要暗号資産に対する先物市場の整備、ビットコインによる現物・先物ETFの整備なども国によっては始まりつつあります。

投資対象としてだけ見ると、確かに暗号資産はリスクの高い危険なものと映るかもしれません。しかし、そこで投資を行う前に、それぞれの暗号資産に込められた理想についても一度目を向けてみて欲しいと思います。暗号資産があることで初めて作れる世界があるので、その奥深さを見た上でどの暗号資産に投資をするのかを決めていけると良いですね。

まとめ

暗号資産がもたらした数々の技術的な革新のお話は、本当に目から鱗の内容でした。

最初から投資対象として見ていると価格の変動にばかり目が行きがちですが、その価格変動がなぜ起きているのかを知ることも投資のリスク管理では欠かせません。

暗号資産について深く知れば、値上がりが期待できるコインを見分ける目も養うことができるでしょう。投資という1つの側面からだけでなく、多様な方面から暗号資産にアプローチしていきたいですね。


※投資には元本を失うリスクがあります。記事中でも触れているように、自身で十分な情報収集を行った上で、あくまでも自己責任のもと取り組んでください。

(取材・執筆・編集/エモーショナルリンク合同会社)