京都文教大学  総合社会学部
講師 多湖 雅博先生
よりよい人間関係を築く、対話型組織開発とは? 

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組織開発と聞くと、難しいイメージが先行してしまいますが、簡単にいえば職場をよりよくするための取り組みです。

このように考えれば、組織開発をより身近なものとして、とらえることができるのではないでしょうか?

職場をよりよくするための方法として、対話型組織開発というものがあります。今回は対話型組織開発について、多湖 雅博先生に教えていただきました。

取材にご協力頂いた方

京都文教大学 総合社会学部 講師
多湖 雅博(たごお まさひろ)

甲南大学大学院社会科学研究科経営学専攻博士後期課程修了。博士(経営学)。
医療機関での管理職を歴任した後、千里金蘭大学助教、新潟医療福祉大学講師などを経て2021年より現職。
組織開発を中心に、組織行動、マネジメント、メンタルヘルスなどを研究しており、従業員と企業がWin-Winの関係を築ける組織を経営学の視点から考察している。
著書は『経営理念・経営ビジョン/経営戦略』(日本医療企画)、『職場の経営学:ミドル・マネジメントのための実践的ヒント』(中央経済社)など。

目次

組織開発とは

エモーショナルリンク合同会社取材担当(以下EL):そもそも組織開発とはどのようなものなのかを、概要から教えていただけますか?

多湖先生:組織開発はODと略されることも多いです。学術的に言えば、組織開発は、

「組織の健全さ、効果性、自己革新力を高めるために、組織を理解し、発展させ、変革していく、計画的で協働的な過程である」中村和俊訳, 2015)

などと定義されています。簡単に言うと、

  • 「組織をよりよくしていくこと」
  • 「よりよくするための支援を行うこと」

のようにと言えるかと思います。

EL:つまり、組織開発とは組織をよりよくするための取り組みといえますね。では、組織をよりよくするための取り組みを、具体的に教えていただけますか?

多湖先生:具体的に言いますと、組織には6つのマネジメント課題があると言われています。それは、

  1. 目的・戦略
  2. 構造
  3. 業務の手順・技術
  4. 制度
  5. 関係性

のことであり、組織のソフトな面とも言われている⑤人と⑥関係性という人間的な側面に、より焦点をあて、これらを「よりよくしていくこと」と言えるかもしれません。

EL:人の集まりである組織をよりよくしていくことを考えるのであれば、組織を形成する人同士の関係性は非常に重要だと考えられますね。

多湖先生:ただ、組織開発の対象は、組織や集団であり個人ではありません。組織をよりよくするために、組織レベルや集団レベルといった、いわゆる個人間の関係性に焦点をあてています。

EL:なるほど、そういった意味でいうと、よく似た概念に人材開発があると思います。人材開発との違いはあるのでしょうか?

多湖先生:人材開発は、組織をよりよくするためにということは同じですが、個人(とその生産性)に焦点をあてています。

このように言われることが一般的ですが、研究者によっては人材育成も組織開発の中に含まれると表現している方もいます。

EL:どこに焦点をあてるかの違いが、組織開発と人材開発との差になるわけですね。

このような取り組み自体は、いつ頃から始まったのでしょうか?

多湖先生:組織開発は1950年代後半ごろにアメリカで誕生し、その後欧米を中心に発展してきました。

日本でもQCサークルなどとして取り入れられていました。その後、1970年代前半ごろから小集団活動として流行していました。

しかし、バブルの崩壊後にすっかり組織開発は忘れられ、2000年頃から再度注目されるようになってきました。

対話型組織開発とは

EL:これまでの内容を踏まえた上で、組織開発の具体的なアプローチ方法などを教えてください。

多湖先生:組織開発は、診断型組織開発と対話型組織開発とに大別されます。

EL:まずは、診断型組織開発について教えていただけますか。

多湖先生:診断型組織開発とは、組織開発を実践する者による診断のフェーズがある問題解決型のアプローチです。

つまり、組織の問題点や欠点を探し出し、それを改善していくという伝統的な組織開発の考え方をもっているものです。客観的な分析と適切な介入が重要となります。

EL:続いて、対話型組織開発について教えていただけますか。

多湖先生:対話型組織開発とは、診断のフェーズがないことが特徴です。

組織の問題点探しなどをせず、対話を通して現状を共有し、メンバー間の関係性を構築し、今後の活動を計画していくアプローチです。

EL:両者の大きな違いは、診断フェーズの有無ということですね。では、もう少し両者の特徴を教えていただけますか。

多湖先生:対話型組織開発のうち多用されている代表的なアプローチとしてAppreciative Inquiry(よくAIと略されます)がありますが、このアプローチは、関係性に目を向け、現存する力や希望、夢などの持ちうる力を引き出すアプローチです。

もう少し詳しく言うと、AIは、問題点に焦点を当てるのではなく、組織内で何が特にうまく機能しているかを発見し、最善のものがより頻繁に発生した場合はどのような状況なのかを考えます。

そして、参加メンバーは希望と理想の未来を成すために対話を行い、希望する変化に向けて行動を起こしていくというものです。

一方の、診断型組織開発のデメリットとしてよく挙げられるのが、問題点や欠点を探すことです。

EL:診断型組織開発の場合、診断フェーズがあるため、問題点がよりクローズアップされてしまいそうですね。

多湖先生:誤解を招きそうなので、少し説明させてもらいますが、問題点や欠点を探し改善すること自体は素晴らしいことですし、組織にとっても必要なことなのです。

しかし、「なぜ、上手くいかないのか?」「原因は何か?」などを探していると、「問題のある組織」が形成され、いつの間にか「誰が問題なんだ」という議論にすり替わるといった経験を何度もしてきました。いわゆる「犯人探し」です。

こうなると、組織の分裂や相互不信などにつながりやすいのです。そうではなく、「どんなときにうまくいった?」「 既にうまくいっていることは?」を探すことで「可能性を秘めた組織」が形成され、メンバー間でよりよい関係性を構築することができると考えられます。

これが対話型組織開発であり、私が診断型組織開発ではなく、対話型組織開発を採用する大きな理由です。

EL:人が集まる組織では、人同士の関係性をいかに良好なものにするかによって、組織としての生産性にも大きな違いが生じそうですね。

そして、良好な関係性を築くためにも、うまくいっているものに注目するというのは、理にかなっているようにも思います。

では、対話型組織開発を進めていく上でのポイントのようなものがあれば、教えていただけますか。

多湖先生:対話型というよりも、組織開発そのものを進めていくポイントとして考えられるのは、実践者が自身の信念や価値観を押し付けることはしないということが重要です。

自身の信念や価値観を押し付けることでは、本当の意味での関係性は生まれません。組織開発は組織内の関係性に焦点をあてています。

関係性をよりよくするためにも、組織開発実践時のメンバーの些細な変化に気づくことも重要であると考えられます。

EL:いくら良い信念であったとしても、一方的に押し付けてしまえば、関係性はむしろ悪化してしまいますよね。

対話型組織開発がもたらすメリット

EL:対話型組織開発を進めていくと、人の関係性にはどのような変化が生まれるのでしょうか。

多湖先生:さまざまな変化がもたらされると思います。

例えば、AIの成果としては、

  • メンバー間の相互賞賛の促進
  • 信頼関係の構築
  • 協力体制の構築
  • 離職率の低下
  • 相談頻度の増加

などです。これらは一例でしかありません。

この他に多様な成果がもたらされています。つまり、人間関係にポジティブな影響を及ぼすということがわかります。

このことが、組織として、個人として、パフォーマンスを向上させることにつながると考えられます。

EL:関係性がよりよくなることで、その影響は多方面への成果として現れるわけですね。

一方でデメリットなどあれば、教えていただけますか。

多湖先生:メリットとしては、このようなものなのですが、デメリットについては今のところあまり考えられません。

強いて言うならですが、人と人の関係性に焦点をあて過ぎることで「仲良し組織」を形成してしまう可能性もあるかもしれません。

今のところ、そのようなことは聞いたことはありませんが、注意しておく必要があると思います。

対話型組織開発の事例

EL:最後に、対話型組織開発の事例があれば、教えていただけますか。

多湖先生:対話型組織開発として、AIを実施した例としてはいくつかあります。

例えば、某病院で実施しましたが、ここでは参加メンバー間の相談頻度の増加や個人レベルのワーク・エンゲイジメントの向上が確認できました。

AIは、肯定的なテーマを設定した後、

  • 「発見」
  • 「夢」
  • 「デザイン」
  • 「実施」

というプロセスで進めていきますが、この病院でも「楽しく元気がいい職場」というテーマ(メンバーで決めました)を掲げ、まずはテーマに関連するメンバーの強みや価値観を抽出し、メンバー間で共有してもらいました。

次に、テーマのような職場を具体的に表すとどのような職場かについて、メンバー間で話し合い、共有してもらいました。

そして、そのような職場を実現するために、抽出されているメンバーに共有された強みや価値観を活かした取り組みを考え、実践してもらうというプロセスで進めていきました。

EL:なるほど、具体的な手順があれば、様々な組織での導入がしやすそうですね。

多湖先生:そうですね。ただ、AIを導入すれば必ず良くなるというような、万能なものというわけではありません。

あくまでも方向性を示すのであり、人の関係性というものは実際に関わっている当事者が実践していくものです。

EL:確かに方法論だけでは、うまく機能しませんよね。現場の方々の実践がともなってはじめて成果が現れるということですね。

多湖先生:そうですね。現場の方々がどれだけ本気なのか、コミットしているのか、は重要なポイントかもしれません。

しかし、成果を持続させたり、組織がさらによりよい方向に向かったりするためには。経営層などのトップのコミットも必要だと考えられます

ただ、トップダウンに偏りすぎると、先ほどもお伝えしたように「自身の信念や価値観を押し付けること」にならないように注意する必要があるでしょう。

EL:押し付けになってしまうと、本当の意味での良好な関係性を築くことは難しいですからね。

多湖先生:人を上手に巻き込んでいくのだけれども、「やらされてる感」がでないようにしていく。その辺りのさじ加減が難しいところです。

EL:人を上手に巻き込むために、先ほど提示された手順が役に立ちそうですね。

また、「やらされてる感」がでないようにするためにも、「対話」というものがやはりキーポイントになってきそうですね。

まとめ

対話型組織開発では人の関係性に着目し、その関係性をよりよくすることで、組織や個人のパフォーマンス向上を狙っています。

具体的にはうまくいった点を分析することで、問題点に着目するアプローチで陥りがちな、いわゆる犯人捜しといった相互不信を招きかねない事態を未然に防いでいます。

また、うまくいった点を分析する対話型組織開発では、信頼関係や協力体制がより育みやすくなるため、良好な関係性が構築されていきます。

対話型組織開発は導入手順も明確であるため、組織開発を進めていく上で非常に参考になるアプローチ手法といえるのではないでしょうか。

(取材・執筆・編集/エモーショナルリンク合同会社)

この記事を書いた人

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