福知山公立大学 地域経営学部
亀井 省吾 教授
ベンチャー企業の起業・経営において重要なこととは?

ベンチャー企業の起業・経営において重要なこととは?

起業を志す方にとって、ベンチャー企業での成功はひとつの目標ではないでしょうか。

ですが、現実にはベンチャー企業の生存確率は創業から5年でたった15%です。10年続くベンチャー企業は6.3%と、全体の9割以上は生き残れません。

そこで今回は、ベンチャー企業の起業・経営で重要なポイントを、福知山公立大学の亀井教授にインタビューしました!

取材にご協力頂いた方

福知山公立大学 地域経営学部 教授 亀井省吾(かめいしょうご)

現職:福知山公立大学 地域経営学部 教授、東京都立産業技術大学院大学 客員教授、多摩大学大学院 客員教授、情報社会学会 理事ほか

東京海上火災保険勤務、ベンチャーキャピタル代表などを経て、2015年中央大学大学院総合政策研究科博士後期課程を修了し博士(学術)を取得。同年、産業技術大学院大学特任准教授に就任。2018年に同大学特任教授、2019年10月より現職。

著書:障碍者雇用と企業の接続的成長:事業における「活用」と「探索」の考察,学文社,2016 ほか

目次

ベンチャー企業とは?ベンチャー企業の定義と中小企業との違い

エモーショナルリンク合同会社取材担当(以下EL):まず最初に、ベンチャー企業とは何か概要を教えていただけますか?

亀井教授:ベンチャー企業と中小企業を同義に考えている方も多いですが、規模は似ていても両者には決定的な違いがあります。

早稲田大学・松田修一名誉教授の著書『ベンチャー企業』(日経BPマーケティング、2014年)では、ベンチャー企業を「成長意欲の強い起業家に率いられたリスクを恐れない若い企業で、製品や商品の独創性、社会性、さらに国際性を持った何らかの新規性のある企業」と定義しています。

実は私も企業のサラリーマンの方や大学院生から、「ベンチャー企業と中小企業とどう違うんですか?」といった質問をよく受けるんです。

小さい企業=ベンチャーのように、企業の規模でベンチャーを捉えてしまっているケースは多々あります。ですが、その認識は誤りで、まず企業としての活動で社会を変革しよう、という成長意欲を持った起業家が率いているかどうか。

その上で、独創的で新規性のある商品やサービスを開発し、社会に活力やインパクトを与える企業行動こそがベンチャー企業の特徴であり魅力です。

よって、規模は中小企業に分類されても、ベンチャー企業であるかどうかは、その特徴を備えているか否かによるといえるでしょう。

EL:企業の規模の大きさでベンチャー企業かどうかが決まるわけではなく、企業としての行動や活動の違いなのですね。

亀井教授:そうです。ベンチャー企業において最も重要なのは、その活動が世の中、国際社会へと広まっていく可能性があるかどうかです。

未だ世の中にないものを開発するのですから、従来からある既存事業とは違い、ベンチャー企業は大きな不確実性のリスクに見舞われます。

既存の事業であれば、例えばコンビニのフランチャイズなら立地が良い場所に店舗を構えて既存ブランドの看板を掲げれば、ある程度の収益が見込めますよね。

ですが、世の中にないサービスを提供したり、商品を開発するとなれば、まず顧客がいるかどうか、何を望んでいるかについて本当のところがわからない。リスクの高さはベンチャーを困難にする要因であり、大きな障壁ともいえます。

そのリスクに果敢に挑むドライバーとなるのが、起業家の持つ社会への強烈な課題意識であり、こんな未来を創り出したいというビジョンです。

リスクを恐れていると企業はなかなか成長しませんし、何回か失敗しても諦めないでチャレンジするには確固たるビジョンが不可欠なのです。

EL:ビジョンというのは、いわゆる熱意のようなものなのでしょうか?

亀井教授:そうですね。ビジョンとは、その熱い思いを実現するための目指すべき目標と言えるでしょう。とはいえ、最初からビジョンを持っている方ばかりではありません。

大学や大学院でベンチャーについて教えていると、学生から「要するにどうやったら儲かるかですよね?」と聞かれることがあります。

ただ、私もいろいろな方を見ていますが、「儲けてやろう」だけではベンチャーはなかなか続かないんです。むしろ、儲けるだけなら給料の高い会社に入って働いた方が収入は良いかもしれません。

やはりベンチャーで成功するには、社会課題に対して誰も取り組んでいないから自分がやるしかない、といった意識が重要になります。

もちろん、最初からこういった社会課題に向き合うのは難しいですし、苦難の人生を歩んできて逆転を狙っている方や、有名になろうといった動機からベンチャーを始める方も多いです。

しかし、活動していく中で様々な困難に見舞われ、ビジョンが芽生えることは少なくありません。

社会と向き合って気づきを得ることで賛同者や共感者が増え、成長曲線に乗って急成長していくようなケースを目にしてきました。

なので、ベンチャーで起業を目指すなら社会課題への問題意識をひとつのきっかけにすると、将来性が見込めるのではないかなと考えてます。

「ベースフード」起業は自動運転バスの実証実験から始まった

EL:社会と向き合うことで見えてくる気づきこそが、ベンチャーを起業する原動力につながるのですね。

亀井教授:その通りです。

日本でクラウドファンディングが広まったのも東日本大震災がきっかけですし、苦境に陥っている人たちに何かできないか、という気持ちからベンチャーが生まれることもあります。

震災後現地に駆けつけた人たちから新たなつながりが生まれ、東北からベンチャーが立ち上がっているケースも見られます。ですが、そういった大きなイベントだけでなく、いつも身の回りで当たり前にやっていることの中にも、よく見ればたくさんの課題があります。

ダイソン掃除機は、創業者が掃除の時に紙パックを変えるのがすごく嫌だったことから生まれていますし、Facebookも創業者のマーク・ザッカーバーグが大学生の時、女子学生への興味から寮のデータをサイトとして公開したことが始まりだったと映画「ソーシャルネットワーク」で描かれてましたね。

自分だけがそう感じていると思っていても、意外に多くの人が共感する課題であることは珍しくありません。だからこそ、常識を疑って身の回りの課題で解決できることはないか、と考えることが起業の第一歩になるかなと思います。

EL:現在日本で活動しているベンチャーでも、やはり身の回りの課題から生まれた企業があるのでしょうか?

亀井教授:ひとつ例を挙げると、完全栄養主食ベースフードの創業者である橋本さんはまさに社会課題から起業されたタイプです。

よく大学主催の講演会などにお呼びしてお話を聞くのですが、橋本さんはもともとIT企業のエンジニアで、地方で自動運転バスの実証実験をやっていたことが起業のきっかけでした。

自動運転バスの実証実験で買い物難民の方を連れてスーパーに通う日々の中で、その高齢の方々の栄養の偏りが心配になったそうです。

そこで橋本さんは「この人たちの救済のために、栄養に関して直接的に何かできないだろうか」と思い、ベースフードの開発を始めました。着想はサラリーマン時代だったので、仕事を終えて夜アパートに帰ってから台所で毎日ごそごそと作り続けたそうです。

最初は給食の30種類の栄養素を麺に練り込めて、主食でありながら味を変えられて毎日飽きずに食べられるもの、ということでパスタを作ったんですね。

それを何回も作り直して、時にはルームシェアしている人たちにも食べてもらって、初めは全然食べてくれなかったけれども、何百回目かにくらいにやっと美味しい自信作が出来上がって。

そこでクラウドファンディングに出して話題になり、Amazonでもランキング1位を獲得して起業に至ったんです。

EL:ベースフードは私も食べているんですが、そんなにも試行錯誤されていたとは知りませんでした。

亀井教授:橋本さんはもともと料理や食品に関する専門知識の持ち合わせはなかったそうです。それでも、社会課題を目の当たりにして自分がやるしかない、となったことが起業につながったんです。

ここで重要なのは、彼はベースフードの開発を志してすぐに会社を辞めたわけではないということです。昔は起業といえば一念発起して行うものでしたが、最近は会社に勤めながら少しずつ進めていく、といったパターンもあります。

橋本さんのように、クラウドファンディングやAmazonを活用してテストマーケティングを行えば、実証結果を見てこれならいけるんじゃないか、と判断してから独立できるようになったこともベンチャー起業を後押ししているといえるでしょう。

コロナショックでベンチャー企業には追い風が吹いている

EL:確かに、テストマーケティングができる環境は起業を志す方にとっては大きな利点です。するとベンチャー企業にとっては、起業・経営がしやすい世の中になってきているのでしょうか?

亀井教授:それこそ、コロナショックにおいてテレワークが推進されたことはベンチャー企業にとって追い風といえます。

ベンチャー企業はどうしてもヒト、モノ、カネといった経営資源(リソース)に限りのある状態でのスタートになります。

ですが、近年は技術の発達によって情報インフラを安価に利用できるので、AWS(Amazon Web Services)などのクラウドだけで起業が可能であり、起業に伴うコストが非常に低くなっています。

そして、Zoomなどの遠隔コミュニケーション手段が普及し、もう一つの重要資源である情報の獲得機会が増加したことや、業務効率性が上がったことは言うまでもありませんね。

それに、これまでベンチャー企業は人材の確保が大変だったんですが、テレワークでは勤務時の時間と場所が自由になるので、企業側も副業をさせられる体制が整ってきています。

コロナショックに伴うリモートの推進で副業が解禁されたところもあって、副業でベンチャー企業に参加する方も今後増えていくのではないでしょうか。

加えて、テレワークの導入で家にいる時間が増えることで、社員の幸福感向上にもつながっていると考えられます。家族と長く一緒にいたり、より環境の良い場所への移動などで幸福感が上がれば、創造性が高まるという研究結果も発表されています。

今まで会社一辺倒だった人が地域や家族の課題意識に触れるチャンスも増えているため、働き方が柔軟になったことで、独創的で新規性のある商品やサービスを生み出せる可能性も高くなったのではないかと思います。

EL:ベンチャー企業に参加してみたい方、ベンチャーで起業を目指す方、どちらからしても取り組みやすい環境が整いつつあるのですね。

亀井教授:これから起業を目指す方の視点でいえば、コロナショックなどで世の中が混乱している今だからこそビジネスチャンスも増えている、と考えられます。

今から10年以上も前にハーバードビジネススクールのマイケル・ポーター教授が「Creating Shared Value(CSV)」、日本語でいえば「共通価値の創造」という考え方を示しました。

これはSDGsが出る前の話で、社会課題解決こそビジネス戦略の中心に据えるべきというCSVの概念は、その後2015年にSDGsが国連サミットで採択されたことを考えても、とても先見の明があったといえます。

私自身もCSVの考え方を目にした時に触発されて、社会課題解決をきっかけにしてベンチャー企業を興していくことはできないかと、ずっと研究しているんですね。

その一環として、現在は「都市部と地域の連携」について考えています。コロナ禍が始まってテレワークの普及が進み始めた頃、地域への企業の移転が見え始める一方、地域が都市部と隔絶され、閉塞する可能性も危惧されていました。

その中で、都市部と地域の交流から生まれるイノベーションについて考えてみたいと思ったことが始まりです。

日本学術振興会の科学研究費をいただいて進めている「起業による地域創生のための人的ネットワーク構築に関する研究」では、組織間のイノベーションの起点を人的ネットワークと捉え直した上で、都市部と地域の人的ネットワークについての形成を考察しています。

つまり、都市部と地域の企業・組織をつなげるきっかけになるのが、SDGsに表現される社会課題や地域課題なのではないか、というのが私の仮説です。

「NEXT産業創造プログラム」福知山産キキョウ石けんの事例

EL:なるほど。社会課題が顕在化してきている現在だからこそ、人と人との新たなネットワークが生まれる可能性も高くなっているということでしょうか?

亀井教授:その通りです。イノベーションについて初めて定義づけた学者のヨーゼフ・シュンペーターは、0からは何も生まれず、何かと何かの掛け合わせ、組み合わせによって新しいものが生まれるとしています。

企業と企業のつながりはもちろん、都市部と地域という違うもの同士をつなげることで独創的な発想が期待できるわけです。

私は大学で福知山市委託事業「NEXT産業創造プログラム」の運営に参加していますが、面白い事例がありますよ。

「NEXT産業創造プログラム」では事業の立ち上げをプログラムの中で行って、開発した商品をクラウドファンディングに出しています。

プログラムには近畿圏だけでなく東京なんかの首都圏からも参加者がいるんですが、東京から参加された個人事業主で、プログラム期間中に株式会社Mind Leafを立ち上げた飯渕さんという方がいまして。

飯渕さんはもともと大手石けんメーカーにお勤めで、会社を辞めてから個人事業主として肌に優しい完全オーガニック石けんを開発しました。

アトピー性皮膚炎などで悩んでいる方にとっては使う石けんも大切で、その課題解決のために完全オーガニック石けんを昔ながらの製法で作っているんです。

そんな中で、飯渕さんは福知山市の花でもあるキキョウ(桔梗)に注目して、その根に保湿を長持ちさせたり、泡立ちを良くする成分が入っていることを発見しました。ただ、キキョウを栽培している企業は見当たらなかったんですね。市役所に相談したところ、福知山市内の高校が実験のために栽培しているということで、市役所の紹介で福知山高校三和分校から、通常は廃棄しているキキョウの根をわけてもらったんです。

キキョウの根を使って開発した石けんは「NEXT産業創造プログラム」を通してクラウドファンディングの「CAMPFIRE(キャンプファイヤー)」に出し、1ヶ月ほどで全国72人から50万円強もの支援を集めたんですよ。

EL:すごいですね。流通していない原料を地域の高校から提供してもらうというのは、なかなか出てこない発想です。

亀井教授:キキョウの根を提供した高校生たちも、自分たちの育てたキキョウが製品化され、さらに肌に悩む人たちの問題を解決したということで非常に喜んでいました。

高校生たちと一緒に取り組んだことをクラウドファンディングでオープンに発信したら、そこでも共感が生まれましてね。

地元のラジオ局が取材に来たり、ラジオを聴いた地元の卸売業者の社長が、ぜひ取り扱いたいということで地元の大手スーパーにもテスト導入される予定です。

大手スーパーとの商談の時にもどんなふうにキキョウを育てているか、高校生が自らプレゼンテーションに行ったりもしていました。こうやって、東京にいる個人事業主の飯渕さんと福知山市がつながって、人と人とのネットワークが形成されていく。

それまで全く関わりのなかったもの同士がつながることで、非常に面白い結果が出ているわけです。

よく、地域のイノベーションには「よそ者」が必要だといわれます。

今回の例であれば、地元の人は全く気づかなかった地域の強みや資源の良さを、都市部から来た飯渕さんが見つけ出して新たな商品やサービスの開発に成功した。

さらに新たな人的ネットワークも形成されて、産業基盤ができてくる可能性もある。こうした事例を見ていると、地域と都市部との連携の効果は確実に出てくると感じますし、コロナ以降は都市部から地域に移ってくる企業や、社員さんが移住して遠隔で大企業に勤めるケースも増えています。

イノベーションのきっかけとなる新たなつながりも、テレワークによって物理的な距離を考慮する必要がなくなったので、ベンチャーの可能性は今後ますます広がっていくと思いますね。

ベンチャー企業を成長させていくために必要なことは?

EL:大変興味深いお話、ありがとうございます。今お聞きしたような事例を知ると、ますますベンチャーでの起業に夢が膨らみますが、その後さらに企業を成長させていくためには何が必要となるでしょうか?

亀井教授:最初に少し触れましたが、起業しようと思った人が諦めずに続けるには、社会課題の解決意識と明確なビジョンを持つことが重要です。

ベンチャーは失敗することを覚悟して、失敗を糧に進んでいけるような強いビジョンを持つことが大切だとお話ししましたが、これは大企業に求められていることでもあります。

100年や200年続く企業は理念を掲げていることが多いですが、その理念、そしてビジョンが社員に浸透しているからこそ企業は続いていくんです。

大企業だとどうしてもビジョンは徐々に薄くなっていきますし、社員1人ひとりに浸透はしづらい。

だからこそ浸透させる努力が必要になるわけですが、Zoomなどのオンラインではなかなか伝わらないんですよ。

ベースフードの橋本さんにしても、遠隔を基本としながらも時には社員が集まる日を設けているそうです。仕事の打ち合わせでなくても、社員の誕生日会のような形で。

そうやって、対面で相手の表情や雰囲気を見ながら熱意を伝えていかないと、社長の持っているビジョンが浸透しないんです。

ビジョンの共有浸透という観点ではテレワークには限界があるので、リアルイベントなどを実施してハイブリッドで運営していくことが大切だと思います。

EL:確かにテレワークは便利な反面、コミュニケーションが取りづらいといった声も多いですね。

亀井教授:大企業の存続に関してもうひとつ言うと、既存事業に甘んじているといつか衰退していく上に、そのライフサイクルもどんどん短命化してきています。

そのため、近年ではベンチャー企業と組んで新しい事業の種を見つけて、イノベーションを起こすことを目指す大企業が増えています。実際、世界のトップ500の企業調査をすると、上位に行けば行くほどスタートアップ、つまりベンチャー企業と何らかの契約を結んでコラボレーションしています。

上位100社だと約70%以上がベンチャー企業と何らかの契約関係を持っているという結果も出ているんです。大企業自身が起こせないイノベーションも多いので、ベンチャー企業と結びついて新しいものを作ろうとしているわけです。起業家から見れば大きなチャンスなので、うまく活用して欲しいですね。

起業したくてもやり方がわからない時は?

EL:アドバイス、大変有難いです。ここまでベンチャー企業の特徴や魅力といった部分を中心にお聞きしてきましたが、起業の際に気をつけることも教えていただけますか?

亀井教授:ベンチャーで起業を目指すなら、起業家を支援する動きを自分から調べてみることが大切ですね。

近年、国内においても起業やベンチャーに関する世の中の認知、環境整備は飛躍的に整いつつあります。岸田政権は、新しい資本主義に向けた重点投資分野の一つに「スタートアップへの投資」を掲げており、ベンチャーへの投資促進も期待される状況です。

しかし、中小企業白書の2017年のアンケートデータでは、起業ができない理由について「経営知識がない」ことが筆頭に挙がっています。続いて「失敗するリスクが怖い」、「資金調達の方法がわからない」、そして「事業化の方法がわからない」といった状況です。

米国などでは小学校の頃から起業教育をしていますが、日本ではそういった起業についての教育はされてこなかった点に問題があると言わざるを得ません。

知識がないから起業しない、できない現状を変えるには、やはり社会に出てからも起業に関する教育を自主的に受けていかなければいけないでしょうね。

EL:日本で今挙げていただいたような内容を勉強するとしたら、どういった手段があるのでしょうか?

亀井教授:正直、日本ではようやく国や大学がスタートアップの支援に本腰を入れ始めた、というのが実情ですね。

シリコンバレーに行くとその辺のカフェにベンチャーキャピタル(ベンチャー起業への出資を行う投資家や投資ファンド)の人がいるんです。

日中とかでも、資金調達をしようと思ったらカフェに行って、「こんなアイデアがあるんだけど」とベンチャーキャピタリストと話ができる。

似た例を国内で行っているのが、渋谷スクランブルスクエアにオープンした「SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)」です。渋谷キューズはスタートアップ支援施設で、大学生や起業家志望、さらに大企業の人や私のような大学教員も集まっています。

そこに行けば起業について勉強できますし、普通に相談できるようなスペースになっていますよ。

また、先ほどお話しした「NEXT産業創造プログラム」であれば、中小企業白書のアンケートで起業の障壁になっているとされる項目について、専用のカリキュラムを作って受講者に指導を行っています。

福知山市に住んでいるかを問わず、学生から社会人まで参加できるので、興味があればぜひ申し込んでいただきたいなと思います。

起業を志す若者世代に向けてのメッセージ

EL:それでは最後に、ベンチャーで起業を目指している方に向けてメッセージをお願いできますか?

亀井教授:技術の進歩やコロナショックなどの影響で、起業のハードル自体はかなり下がってきています。

しかし、言わばアイデアさえあれば勝負できるような状況になっているからこそ、ビジョンが欠落してしまう可能性もあります。

どんなに環境が整ったとしても、独創的で新規性のある商品やサービスを開発し、社会にインパクトを与えるのがベンチャー企業であり、不確実性が高いことに変わりはありません。

そのリスクに果敢に臨み、多くの失敗を乗り越えていくには、社会や地域への課題意識と、こんな未来を創り出したいというビジョンが大切です。

とはいえ、焦る必要はありません。今の若者、特にZ世代はSDGsなどの影響もあって、社会課題の解決や地域の課題解決を社会に出る前から意識している人が多くなっています。

そこで一気に起業したい気持ちもあるかもしれませんが、まずは一度社会に出て働き、いろいろな経験を積んだり、何らかの専門性を身につけてからでも遅くはありません。

ベースフードの橋本さんや、キキョウ石けんの飯渕さんも、一般企業で働いて知識や技術を身につけてから起業しています。社会に出て働いた時にできた人脈も、起業にあたっては大いに力になるでしょう。

なので、これから起業を考えている方は、まずは身近な小さなことに目を向け、自分ごとの課題は何かを見つめてみることです。働いていく中で自分なりの課題を見つけて、社会にどんなインパクトを与えたいかを明確にし、志を実現していってください。

まとめ

ベンチャーで起業することには、先行きが不透明であることから大きなリスクが伴います。

しかし、クラウドファンディングやECサイトでの販売を行ってテストマーケティングをすれば、リスクを抑えつつ起業の準備を進めることが可能です。亀井教授に紹介していただいた「NEXT産業創造プログラム」なども活用すれば、着実に成功に一歩近づくでしょう。

身近にある社会課題から目を背けず、自分が社会に与えられるインパクトを常に模索していきたいですね。

◆著書:障碍者雇用と企業の接続的成長:事業における「活用」と「探索」の考察,学文社,2016

https://www.gakubunsha.com/book/b241819.html
◆大学ホームページ

https://www.fukuchiyama.ac.jp/about/educational_info/prof/kamei/

◆亀井 省吾教授:業績一覧
https://researchmap.jp/sk_united

(取材・執筆・編集/エモーショナルリンク合同会社)

※当記事は、福知山公立大学公式サイトでもご紹介いただきました。

この記事を書いた人

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